2016年5月29日 (日)

鎌田實の一日一冊(286)

「政府は必ず嘘をつく増補版」(堤未果著、角川新書)
著者の話は衝撃的だ。
2002年に導入された住基ネットは、2000億円もの税金が投入されたにもかかわらず、14年経った今も住基カードの普及率はたった5パーセント。
いったい、これだけの税金はだれの役に立ったのか。
地方自治情報センターに総務省から天下りした役員たちに高額報酬があり、批判が集まりだしたときに、渡りに船とばかりにマイナンバーが登場した。
2015年にさらに700億円の予算を計上してマイナンバーが始まった。
日本はこんな無駄なことをやっている余裕があるのだろうか。

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著者は、国民皆保険制度の存続危機にも警鐘を鳴らす。
政府は、国民皆保険制度をつぶさないと何度も強調している。
TPPで、アメリカの高額な新薬が持ち込まれ、日本で消費されても、
国民皆保険制度があるため、高くても新薬は使われる。
だが、医療費が膨大になり、将来的に高い薬が保険外になったりしたら、
民間の保険会社にでも入らなければ、十分な医療が受けられなくなる。
すでにがん保険は、アメリカのものが日本を制圧している。
ISDS条項が妥結されると、これからとんでもないことが起きてくる。
現在、中医協が薬価をコントロールとしているが、そこへアメリカが介入してくる可能性がある。
国民皆保険制度は守られても、アメリカのグローバル企業が好き放題をしていく。
おもしろくて、怖い本である。

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2016年5月28日 (土)

鎌田實の一日一冊(285)

「医学生からの診断推論」(山中克郎著、羊土社)
医療は日々進歩している。
もういちどブラッシュアップしなければいけないと思い、緩和医療や在宅医療の専門医について、“指導”してもらっている。
諏訪中央病院には、何人ものの総合診療の優秀な指導医たちがいる。
その一人である山中先生と佐藤先生の本である。

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「診断の9割は問診である」「よくある疾患は、パッケージで攻めろ」とある。
例えば、右側の下腹部痛があると、虫垂炎を想定することが多い。
しかし、日本で最も多い食中毒の原因のカンピロバクターによる炎症であることが多い。
虫垂炎のように胃が痛くなっていないか確認をとるなど、問診していくと、だんだん答えに近づていく。
鶏肉の5割はカンピロバクターに感染している。
まな板の上で切り、その後、さっと洗ったまな板の上でサラダ用の野菜を切る。
これがいけない。
カンピロバクターは、80度以上の熱湯をかけなかければ死なない。
こんな話が満載。
患者さんに会ったら、最初の1分で患者さんの心をつかめとか、
小説や美術書、歴史書、あゆるジャンルの本に関心をもち、感受性を高めよ、など、
医学生や若い医師にわかりやすくアドバイスしている。
医学は、一生学び続ける必要がある。
そして、学ぶことはおもしろい。

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2016年5月27日 (金)

6年ぶりの再会

長野県の飯田に講演に行った。
患者さんが6年ぶりに訪ねてきた。
肺がんで、難しい場所にあったため、手術ができないといわれた。
抗がん剤治療を受けていたが、飯田から茅野の諏訪中央病院に予約をとってやってきた。
「たいへん混んでいる外来で、私の診察に30分も割いてくれた」と当時を振り返る。
彼女は、免疫療法のひとつである樹状細胞治療を受けたいと話したという。
それに対し、ぼくはこんなことを言ったらしい。
「○か×かではなく、△というところでしょう」
ぼくは覚えてない。
だが、どうしてもというならば、信州大学付属病院がやっている樹状細胞治療が信頼できる、と言ったという。
これを開発した会社の社長が、諏訪中央病院でパート医をしていたことがある。
診察の最後に「あなたはポジティブな方だから、大丈夫ですよ」とぼくがいい、握手をしたのが忘れられないと話してくれた。

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6年経った今、腫瘍は消えていないが、成長はしていない。
抗がん剤治療はいまも受けているという。
抗がん剤がすごく効いているのだろう。
樹状細胞療法も2年間やったが、少しは役に立ったのかもしれないが、科学的にはわからない。
免疫療法は、まだ開発段階であるが、免疫チェックポイント阻害剤という新しいタイプの薬も出てきた。
がんと闘える武器が少しずつ増えているのはいいことである。
それでもすべてのがん患者を助けることはできない。
医療は、そういう限界をいつも痛感する。
だが、そのなかで、彼女のように「元気です」と久しぶりに顔を見せてくれる患者さんがいることは、とてもうれしいことである。

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