NY摩天楼の朝日
ついにNYへ着いた。
NYの摩天楼の向こうから太陽が昇ってくる光景は、何ともいえない不思議な美しい光景だった。
大嫌いなアメリカについに上陸する。
ハワイへは、障害のある人たちに楽しんでもらうため毎年ボランティアで行っている。
アメリカ大陸にはあまり行きたいという気にはならなかった。
もちろんすべてのアメリカを否定しているわけではない。
ぼくはエッセイの中でも、アメリカの下半身には暖かな血が通っていると書いてきた。
しかしアメリカが世界を悪くしていることは今も強く確信している。
アメリカ人一人ひとりがフレンドリーで温かいとわかっていながら、
アメリカの国の形、あるいはアメリカを動かしている政治や経済や軍事が、世界を壊していると思っている。
グランドゼロを訪れ、フェルメールの絵を探してフリックコレクションとメトロポリタン美術館を見、ブルーノートでジャズを聴き、そっとNYの空気を吸ってみようと思っている。
甲板で朝5時から自由の女神を見ながら、たくさんの日本人たちに声をかけられた。
すてきな話を聞いた。
広島で原爆にあい、両親を失い、5歳と2歳の姉と弟が別れ離れになった。
姉がおじさんの家にもらわれていった。弟は祖父母に育てられた。
今、68歳と65歳の姉弟である。
弟は60歳で定年退職し、5年間レストランを経営した。大変うまくいき、繁盛した。
1年間365日のうち、362日働いたという。
一生懸命生きてきたので、一つの区切りを付けたいと思った。
繁盛していたレストランを売った。
困難の中に生きている人たちを助けたいと思って、がんの患者さんたちを支えるNPOをつくった。自分はがんではない。
姉を誘った。二人で世界一周しよう。
姉の名を呼ぶことはできても、『お姉ちゃん』とは一度も言えなかった。
63年ぶりの姉弟の絆のつむぎなおしである。
いいなあと思った。
NYのハドソンリバーの中をピースボートはゆっくりと進んでいく。
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