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2008年7月31日 (木)

鎌田劇場へようこそ!(3)「画家と庭師とカンパーニュ」

8月2日(土)より、渋谷東急本店横、文化村ル・シネマ他、全国順次ロードショー。

080731心温かくなる映画だ。穏やかに、人間って結構いいなあと感じさせてくれる映画である。
友情があふれている。人生とは何か、豊かさとは何か、真の幸福の意味が見えてくる映画である。

有名になった画家と、まじめに仕事だけをしてきた元鉄道員の庭師。
名匠ジャン・ベッケル監督が、老境にさしかかった二人の小学校の同級生の友情を描く。

庭師は、純粋で、朴とつとしていて、どんな誘惑にも負けず、丁寧に生きることだけを地道にやってきた。只者ではないのである。ふるさとカンパーニュの荒れ果てた庭が、庭師の手によって徐々にきれいになっていく。荒れた土地を掘り返し、庭師は美しい野菜を植えていく。トマトやズッキーニがたわわに実り、人参がみごとにできるころ、庭師に病魔が静かに襲ってくる。

画家は庭師を知り合いの医師のところへ連れて行った。緊急手術を受けたが手遅れだった。画家に取り残された選択肢は、庭師の最期を彼の愛するカンパーニュで迎えさせてあげることだった。

庭師は画家を鯉を釣りに湖へ連れて行く。小船の上で二人で大物の鯉を狙う。
庭師は言う。「死神は巨大な鯉と同じだよ。姿は見えなくてもいるとわかる」
たんたんとした美しい言葉が、死を直前にした庭師の口から出る。
そんなとき突然湖面が揺れ、水面下に巨大な鯉が顔を出した。二人で協力して必死に吊り上げた。これで三度目だ。「これが最後」と庭師はつぶやいた。
そして巨大な鯉を湖に再び解放す。「達者でな」
まるで自分が死んでいくことがわかり、もう会うことがないと悟っているような言葉であった。

庭師は、「オレが好きなものを描いてくれ」と画家に頼んだ。画家は売れてはいたが、燃えるような絵を描けなくなっていた。その画家が親友の言葉を引き継ぐのである。

映画のエンディングは展覧会の会場。
庭師のつかったミニバイクや、庭仕事用の黄色い長靴、トマトやズッキーニ、にんじんといった野菜たち、そしてあの巨大な鯉。庭師の愛してやまなかったカンパーニュの風景が、みごとなタッチで油絵になっていた。そしてたくさんの人がその絵を買っていく。

「名画でなくていい、明るい色の絵がいいなあ」と庭師は言った。
そのとおり、素直な輝くような愛らしい絵が並ぶ。個展の会場は美しい光であふれていた。親友の画家の能力をよく評価し、難しい絵を描くよりもシンプルな絵を描かせたかったのだろう。画家は再びみごとな芸術家として開花していく。

庭師の役をしたジャン=ピエール・ダルッサン。
昨年ヒットしたサン・ジャックへの道でアルコール依存症の役をした個性派俳優である。
サン・ジャックへの道のときにも、存在感あふれる役だった。セリフは少ないが、他の役者を食ってなんとも存在感が豊かであった。ジャン=ピエールは、この作品で完全に開花したように思う。
吊り上げた巨大な鯉に、達者でなと声を掛け、再び湖中に放つ庭師の穏やかな声と顔に感動を禁じえなかった。

どのカットも美しい。人生で大切なものは何か、愛とか、家族を、おしつけることなく静かに考えさせてくれる作品になっている。
見て欲しい映画だ。心温かくなること、まず間違いないと思う。

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