鎌田劇場へようこそ!(5) 獣の脳を描く映画「リダクテッド」
「リダクテッド 真実の価値」という映画をおすすめする。
監督は、ブライアン・デ・パルマ。
トム・ルーズ主演の「ミッション・インポッシブル」や名作「アンタッチャブル」の名監督が、アメリカ中を敵に回してつくったような作品だ。
「リダクテッド」というのは、編集済みとか削除とかといった意味で、削除されてしまったアメリカの恥部を描いている。
フィクションとされていはいるが、実際は2006年3月12日に、21歳の一等兵と同僚3人によって起こされたレイプ殺人事件をモデルにしている。
彼らは、14歳のイラク人少女アビアちゃんをレイプし、さらにその父と母と妹を銃殺し、焼き払った。
その後、テロリストにイラク駐留の米兵が報復として惨殺され、このレイプ殺人事件が発覚した。
アメリカはきらいだけれど、やっぱりすごい国だと思う。
こういう映画をつくる人間がいるのだ。
勇気があるなと思う。自分の国の恥部をさらけ出している。
娘と一緒に映画を見ながら、だから戦争はいけないんだ、ということを何度も何度も確認してしまった。
なぜ、戦争はいけないのか。
人間は、獣の脳をもっている。
恐怖におののき、怒りを爆発させるのは、大脳辺縁系という獣の脳である。
検問所で、無差別テロや自爆テロの恐怖におののきながら任務につく兵士たちが、ほんのちょっとしたことで逆上する場面がある。
まさに、獣の脳が暴れだし、コントロールを失っている姿だ。
また、爬虫類の脳といわれる視床下部には、攻撃欲と性欲の中枢が隣り合っている。
戦争という暴力のなかにいると、異常なセクシャルな行動に出てしまう確率が高くなるのだ。
これらの獣の脳や爬虫類の脳が暴走しないように、前頭葉という大脳皮質がある。
人間は、ここにいつもいい刺激を与えていないといけない。
しかし、戦争になると、この大脳皮質がセルフコントロールを失っていく。
だから戦争は、どんなことがあってもいけないのだ。
2007年のヴェネチア国際映画祭で、銀獅子賞に輝いた。
しかし、FOXニュースなどが、劇場での上映拒否を促し、一般紙も映画の存在を無視した。
アメリカでは、ほとんど上映される機会がなかった。
つらい映画である。
目を背けたくなるシーンもある。
だが、どんなことがあっても戦争は回避すべき、ということを実感できる。
それがこの映画の価値だと思う。
現在、渋谷のシアターN渋谷(電話03-5489-2592)で上演されている。
ぜひ、観てほしい一本だ。
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