鎌田實 日本経済への提言 その②
~~冷え切ったこころをウォームアップ!~~
不況とか、恐慌というのは、マインドの冷え込みがいちばんの問題だと思う。
不安と不信で、冷え切った国民のこころを、どうあたためていったらいいのだろうか。
ぼくは、こう考える。
まずは、下半身にあたたかな血を通わすことが大事だ。
たとえば、今回、緊急経済対策で投入しようとする23兆円は、若者たちが結婚できて、子どもを産み、育てる気になるような政策のために有効に使うべきだ。
人口が増えていけば、しぜんに消費者が増えていく。
医療や福祉にも当然、23兆円を使って、医療と福祉をたて直さなければならない。
2兆円の定額給付金のバラマキはやめて、1兆5千億円を医療崩壊を防ぐために使い、5千億円を福祉に使えば、医療崩壊や介護崩壊をだいぶ食い止めることができる。
雇用の安定も重要である。
いま派遣切りが問題になっているが、トップランナーの大企業は、なんとか派遣労働者を生き続けさせられる方法を考えるべきだ。
正規社員の給料を5%ほど減らしてでも、派遣の給料を半額にしてでも、派遣を切らない方法をとり、なんとか土俵際で持ちこたえる粘り強さが必要だったのではないか。
それは、派遣労働者を守るためでもあるが、企業自身を守ることにもつながる。
だが、すでに引き金はひかれ、企業はドミノ倒しのように、萎縮の方向に向かいはじめている。
今まで日本にあった分厚い中流層は崩れ、下流層が多くなり、社会は安定性を失っていく。消費はますます冷えていくだろう。
そんなマイナスの連鎖を断ち切るためにも、国民や企業をまもる政策を打ち出すべきである。
国民や企業経営者に安心感を与え、雇用を安定させ、分厚い中流層をつくることが大事なのだ。下流をつくってきたここ数年の大きな流れを反省すべきである。
「100年に一度の経済危機」という言葉に萎縮してはいけない。
ぼくたちの国は、世界でいち早く危機を脱出する切り札をもっている。
1500兆円という、世界でもっとも多くの貯金をもっている、という切り札だ。
“眠れる貯金”を動かすには、リーダーが、安心の国づくりをするという熱い物語を語り、国民の冷え切ったこころをあたためることが必要だ。
そして、リーダーは国民にこう語ることである。
「自分の貯金をつかって、自分の人生を豊かにしてほしい、それが、この国を救うことになる」
同時に、1500兆円のお金を動かするために、ちょっとした仕掛けも必要だ。
ぼくは、「1年間の相続税の撤廃」を提案したい。
たとえば、若い夫婦は家を買おうと思っても、勇気がないし、経済力にも不安がある。
でも、この1年間は相続税がかからないということになれば、親が家やマンション、土地などを買ってあげやすくなる。
不動産だけでなく、必要ならば車やモノを買ってあげるのもいいだろう。
もちろん、今の制度でも、ルールによってちょっとずつ異なるけれど、最大3500万円までは、贈与税がかからない。
ただし、将来、親が亡くなって遺産を相続するとき、生前に贈与されたものは遺産相続の額にカウントされて、相続税の対象となる。
ぼくの提案は、この将来の相続税の部分も、1年間はナシにしようというものだ。
また、NPOやボランティア団体に寄付するとき、医薬品や医療機器などモノで寄付する場合は税金をとらないという形にしてしまえば、もっと寄付をしやすくなる。
親の世代にとどまっていた貯金や、富裕層のお金が、しぜんに動き出すような仕掛けをつくり、いまはとにかく、買える人に、土地やマンションや高級品を買ってもらうことが大切なのである。
そうすることにより、凍りついた経済が少しずつ動いていく。
不況は、つもりつもって恐慌になるのではない。
憎しみや不信感が、暴力や戦争への連鎖を起こしていくのと同じように、
不況という不安感が連鎖を起こして、恐慌へと走っていくのである。
恐慌への連鎖を断ち切るには、不安で冷え切ったこころをあたためなければならない。
こころをウォーミングアップする政策が、いまこそ必要なのだ。
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