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2008年12月22日 (月)

鎌田劇場へようこそ!(11)『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

アレクサンドル・ソクーロフ監督の作品が、久々のロードショー。
20日から、渋谷ユーロスペースで上映されている。

1990年代、2度のチェチェン紛争が起こった。
一度、停戦になったが、チェチェンのなかにもイスラム過激派がおり、チェチェン共和国として独立の機運が高まるなかで、大掛かりなテロ行為が行われ、ロシアは再び戦争を起こしはじめた。
はじめのうち、ロシアの暴挙をアメリカやヨーロッパは批判していたが、あの9.11のテロが起きてからは、アメリカなどの批判はなくなり、戦争は泥沼化していってしまった。

ソクーロフは多作作家で、毎回、注目される作品を撮ってきた。
今作品も、チェチェンの戦場で25日間にわたって、オールロケが行われた。
戦闘シーンは一度も出てこない。
80歳のロシア人のおばあちゃんが、チェチェンのロシア軍基地にいる孫を訪ねて旅をする。そのおばあちゃんの目を通して見た町は、戦場の緊迫感に満ちている。戦争がいかに馬鹿らしいものであるかという、女性の視点が、作品に貫かれているのがわかる。
実際、チェチェンに息子を送り出した母親たちが、長引き、泥沼化していく戦争をなんとかやめてもらおう、と政府に訴えかける動きもあった。
そんな母親たちの思いが、この映画に深く流れているような気がする。

80歳のおばあちゃんは、戦場の兵士たちのキャンプにとどまることなく、町や市場へ出て行く。
チェチェン人と交流するのである。
女たちは理解しあう。
町からキャンプへ帰る途中、チェチェンの若者に道案内をされる。Photo
この光景がじつにすばらしい。
若者が「メッカへ行きたい」と言う。
このチェチェン戦争も、民族戦争であり、宗教戦争であることをにおわしている。

戦場の兵士たちは、キャンプのなかでは、おばあちゃんに対して、やさしくジェントルマンであった。
だが、キャンプの外は戦場である。
人を殺すことを仕事とする男たちの世界。
なんともいびつな世界であることが見えてくる。

おばあちゃんは貨車に乗り、自分の国、ロシアへ帰っていく。
チェチェンで知り合った女友だち4人が見送りにやってくる。
情感のある、平和への祈りが込められた、美しい別れのショットが続く。
しかし、4人のなかで、もっともうちとけたはずの老婆が、
手を振ることもなく、列車を見送ることもなく、視線を遠くへ動かしていく。
チェチェン人はやさしく、客のもてなしを大切にする民族といわれている。
しかし、心のどこかに、長い間戦争をしかけてくるロシアに対して、許すことができない複雑な思いが、その老婆の遠い視線にみてとれた。

戦場でつくられた、すぐれた反戦映画であることは間違いないが、それだけではない。
人間の複雑なこころのひだが、見事に映し出されている。
さすがソクーロフと思った。

80歳のおばあちゃんの演技がすばらしい。
有名なオペラの歌手が演じている。
映画ははじめてということである。
新鮮な空気が漂っている。

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