鎌田實 日本経済への提言⑲
~~空気を壊すな~~
大阪の釜ケ崎にある子どもの里では、毎週土曜、おにぎりとみそ汁と毛布を持って、町のなかを歩くという。
80人ほどの子どもたちが、5つほどのグループに分かれて、野宿している人たちに声をかけてあるくのだ。
夜まわりは、夜の8時から2時間ほど。
寒空の下、子どもたちも、よくやっている。
子どもたちは、釜ケ崎に流れてきた人たちの人生の話を聞く。
なぜ、どんな事情で、釜ケ崎に来て、いま野宿するようになったのかという一人ひとりの自分史に、耳を傾ける。
子どもたちはそれに共感し、何かを学んでいく。
釜ケ崎では、シェルターに入りきれない人たちが、この冬の寒風の中、野宿をしている。
食べ物はいろいろなNGOが曜日を決め、分担を決め、炊き出しをしながら、最低限の食がとれるようにしているが、十分とは言えない。
派遣切りが行われ、40歳くらいの働き盛りの人たちも釜ケ崎に増えている。
すると、今まで日雇いの仕事をもらえていた50歳代の人たちがあぶれてしまう。
職を失い、ドヤに泊まれていた人たちが、野宿に転落しているという。
軽い知的障害がある人たちも、数年前までは、日雇い仲間がみんなで守りあい、見守りあうことで、その人も一人前の給料をもらっていた。
だが、自分が生きるのがやっとという時代になり、恵まれない社会でさらに恵まれない人たちを、なんとかみんなで守ってきた空気が壊れ始めている。
日雇い労働をたばねていた親方役には、人格者で面倒見がよい人が多かった。
だがそんな親方役自身も仕事がなくなり、野宿をするようになった人もいるという。
今回の派遣切りのしわ寄せは、もっとも弱いところに、さらに厳しい形であらわれている。
職を失うことによって、今まで何とか成り立っていた、見えない支え合いの空気をも壊していく。
なんとか雇用の創出を考えないかぎり、今の状況は打破できないと思う。
低賃金だとしても、仕事があれば、賃金を使う。
使うことによって資本主義社会はまわりだすのである。
自治体も国も企業もNGOも、雇用の創出へ向かって、全力投球しないといけない時代がきている。
それが、自分の地域を守ること、自分の企業を守ること、この国を守るることにもなると思う。
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