鎌田劇場へようこそ!(19)『スラムドッグ$ミリオネア』
インドのムンバイにあるボリウッドでつくられた映画。
ハリウッドではなく、ボリウッドというのが、なんとなくインチキ臭くていいなと思った。
ハリウッドは張りぼてで、つまらない映画をつくっている。
特に、CGを使うようになってからますます張りぼて度が増して、本物のインチキになったいった。
ボリウッドでつくられたこの映画は、インチキ臭さの向こうに生命力やスピード、躍動感、汚さやずるさや裏切りや友情や兄弟愛が、混沌としてあふれている映画であった。
インチキ臭さが、インチキを超えた映画である。
スラムの負け犬の少年2人がたくましく生き抜いていく。
2時間の映画の、大事な場面には列車が出てくる。
少年たちは生きるために列車にもぐりこみ、食べ物の商売をする。
その列車の中の表現は、すばらしいアングルで美しい。
子どもを食い物にする悪人たちから逃れるときも、列車が使われる。
大好きな少女ラティカと離れ離れになるのもこの列車であった。
最後に少年が少女と会うことができたのも、また、列車がつくターミナルステーションであった。
じつに見事に列車が使われていて、ひとつひとつが美しい。
そして、主人公18歳の少年は、少女に会うためにテレビ番組のクイズ、ミリオネアに出演する。
クイズが続くなかで、いくつもの少年の生き方が見えてくる。
200万ルピー、日本円にして4000万円。
最後の問題は、三銃士の三番目の戦士の名前であった。
少年は、少女たちと「三銃士」を名乗って遊んでいたのだけれど、その名は知らなかった。
少年は、ヒントをもらうために、“ライフライン”の電話をある人にかける。
ここが、じつにうまくできている。
その電話は、ある人につながるのである。
もうここで、この感動的な映画のすべてはエンディングを迎えたように思う。
その後、クイズのファイナルアンサーの結果が待っているのであるが、もうぼくには当たるか当たらないか、どうでもいいと思えた。
この少年のファイナルアンサーは、ライフラインを使って、ある人とつながることであったのだ。
全部、インチキっぽいけれど、インチキっぽさの向こうに圧倒的な迫力と、ムンバイのスラムのリアリティーとエネルギーがある。
ムンバイのエネルギーに満ちた空気が、この映画を成功に導いたのだと思う。
これをハリウッドでとっていたら、つまらない映画になっていただろうな。
ハリウッドではなく、ボリウッドでつくられた、スラムドッグミリオネア、感動した。
映画を見終わった後、宗教家の山折哲雄先生と対談をした。
大変尊敬している方で、いろんな気づきになる対談であった。
山折さんは、ぼくの『いいかげんがいい』や『がんばらない』などの本を読んでいてくれて、
人間の生き方には、「しゃあないなあ」という生き方があるんだという感想をくれた。
まさに、この『スラムドッグ$ミリオネア』にも、「しゃあないなあ」の運命観が流れているように感じた。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 上映トークイベント10/6(2024.09.05)
- ジョージア映画祭2024(2024.08.29)
- 鎌田劇場へようこそ!(565)(2024.07.15)
- 鎌田劇場へようこそ!(564)(2024.07.13)
- 鎌田劇場へようこそ!(563)(2024.07.05)