唐十郎からの電話
アンダーグラウンド、闇の世界から電話がかかってきた。
闇の世界からのその声は、桁違いに甲高く、ハイテンションであった。
「カラジュウロウです」
唐十郎の声は、細くて、明るくて、高音で、スキップしているような声のなかに、得体の知れない粘り気がある。
独特のしゃべり方である。
「鎌田さん、いい脚本ができたんです。みてもらいたいなあ」
「すごいところ、見つけたんですよ。長崎にある軍艦島の海底炭鉱なんだ」
彼は一方的にしゃべる。
「ちょっと今までにないんですよ」
ぼくは唖然としながら聞いていた。
唐十郎の脚本を読ませてもらったことがある。
まず、文字に驚いた。
唐十郎の文字は、芝居とは空気が違う。
几帳面で、一字一字が小さくて、丁寧で、腺病質な空気が漂っていた。
知的障害のある子どもが、計り知れない根気で繊細で緻密な絵を、大きな紙に埋め込むように描いているのをときどき見るが、
唐十郎の脚本ノートは、まさにそれであった。
心血を注いでいる――。
はじめて脚本をみたとき、そう思った。
一つひとつの作品が、彼にとっては子どものようにかわいいのであろう。
でも、今度の芝居は特別だ、とぼくは感じた。
彼の電話から、彼自身も何か新しい突破口をみつけているのではないかと思った。
海底200メートル下の闇の坑道を舞台に、新しい唐十郎の芝居は始まる。
タイトルは「黒手帳に頬紅を」。
紅テントである。
唐十郎の新しい世界が、繰り広げられる。
役者陣も円熟味を増してきた。
楽しみである。
4月25日の大阪公演を皮切りに、水戸でも行う。
5月2日からは新宿花園神社の境内などで、赤いテントが怪しげに立つ。
この空間に入ると、世界が変わる。
ぼくは6月13日の公演を見に行くつもりである。
お問い合わせは、唐組03-3330-8118へどうぞ。
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