われわれはどこから来たのか⑨
~~神話を読み解く本~~
『アマテラスの誕生』(筑紫申真著、講談社学術文庫)は、なぜアマテラスが天皇家の祖神へと変貌したか、興味深く解き明かしてくれる。
もともとアマテラスは、各地方に存在していた太陽神、自然神であった。
それが、古代国家の形成に向かう激動の7世紀末、大和と伊勢を舞台にどうような形で神話として作られていったかダイナミックに語っている。
天の岩戸や天孫降臨という神話は、宮廷巫女たちの出身地である神事伝承と日常の生活大系をもとにして、天皇の絶対的権威を高める神話として組み立てられていった。
その虚構は、巫女の神語りとして語り伝えられ、神話になっていった。
古事記や日本書紀にも採録されている。
では、7世紀末、何が起こったのか。
神話によって天皇の権威を確立しなければならなかった大事件、壬申の乱である。
天武天皇とその皇后である持統は、もともと天皇家の最後の原始信仰的な天皇であったという。
天武は、持統にのりうつっている神に託宣を請うて質問する神冠(じんかん)であったのではないか、と書かれている。
つまり、持統は、アマテラスの巫女であった。
そして、壬申の乱というクーデターが成功した後、天武の世から持統の世へと移る。
持統天皇は、直系の子孫に皇位を継がせることを望み、例の神話の力を借りていった。
アマテラスの巫女であった持統が、アマテラスそのものへとつくりあげられていく。
アマテラスが孫のニニギを地上に降臨させたことと、持統天皇が孫の文武天皇を立てたことはオーバーラップするのである。
その一方で、持統天皇は、中国の合理的な権力システムを構築して、呪術的な支配をやめ、合理的な官僚国家を構築していく。
すごい女帝である。
ニッポンという国がどのように統治されていったか、そして神話がどのように使われていったか、見事に解明している本である。
われわれはどこから来たのか。
ポリネシアを旅しながら、ずっと考えてきた。
イースター島のアフという祭壇や、タヒチのマラエという祭壇を見て、
伊勢神宮とよく似た雰囲気があることに気づいた。
その伊勢神宮のルーツを知るうえでも、この本はとても興味深い。
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