発見!特Bグルメ(53)ミンチカツ物語
日光東照宮のすぐわきにある明治の館というしゃれたレストランが気に入った。
おいしいのはオニオングラタンスープとミンチカツ。
こんなにおいしいミンチカツは食べたことはなかった。
ぼくにとってミンチカツは大変なごちそうであった。
母は心臓弁膜症を患っており、病弱であったが、状態がいいときにはできるだけ弁当をつくってくれた。
母がつくってくれた弁当はおいしかったが、友だちに見られたくなった。
弁当の蓋を開けると、たいがい色が一色なのである。
のりが全面に敷いてあって、端っこにたくあんか梅干とか、地味なのである。 ぼくが子どものころ、日本はまだ全体的に貧しかったが、戦争に負けて10年ほど経ち、復興の兆しがあった。
友だちのお弁当をのぞくと、ウインナーや卵焼きが入っていて、色がきれいだったのに驚いたのを覚えている。
それでも母のつくってくれた弁当は、おいしかった。
ごちそうは、前の日に肉屋さんで買ったコロッケを一枚残しておいて、翌日、母が煮付けてくれるコロッケ弁当である。
汁ごとごはんに一枚のせただけ。ほかのおかずはなし。
でも、このコロッケ弁当はじつにうまかった。
友だちには見られたくなかったが、大好きだった。
本当にまれなのであるが、もっとごちそうがあった。
コロッケの代わりにミンチカツがのっかる弁当である。
母は病弱なので、うちでは手の込んだことはできない。
やはり、肉屋さんでミンチカツを買ってきて、それに味付けしてくれるのである。
これがまた、じつにおいしくて、感動すらしたことを覚えている。
子どものころに心をふるわされたお弁当は一生忘れない。
ぼくは、明治の館でミンチカツを食べながら、母のミンチカツを思い出した。
明治の館のミンチカツはわざわざ食べに言ってもいいくらいおいしい。
久しぶりに母のことを思い出し、東照宮で母に感謝の手を合わせた。
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