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2009年6月 5日 (金)

鎌田實の一日一冊(23) 江戸の岩次郎

『早刷り岩次郎』(朝日新聞社)は、山本一力さんの小説である。
主人公は、釜田屋岩次郎。瓦版屋のおやじである。
正義感が強く、流れを読むのがうまい。

瓦版を創刊しようというとき、不審火のニュースが飛び込んでくる。
まず、付け火をしたのではないかとささやかれている男の人相書きを目撃者からつくり、号外を出した。
当時、字が読めない人たちがたくさんいたため、できるだけ絵の多い瓦版にした。
これが成功する。
2回目の号外では、火消したちの命がけの活躍を書いた。Photo
この瓦版が、江戸中で評判になった。
3回目の号外では、容疑者逮捕のニュース。
1回目の号外の人相書きを見たから犯人が捕まったのだ。
こんなふうに瓦版屋の岩次郎は、情報戦略という画期的な仕事として、大成功するのである。

釜田屋岩次郎は、ぼくの父をモデルにしている。
以前、一力さんに父の話をしたことがある。
「鎌田岩次郎の性格をそのまま、舞台を江戸に移して、瓦版屋として活躍させるけれどいいか」という許可を得てきたので、どうぞ、という話になった。

鎌田岩次郎も、あの世で満足しているのではないかと勝手に想像している。
岩次郎小屋という名前をつけたとき、「家の名前で遊ぶな」とか、ぼくの子どもの名前の件で「子どもの名前で遊ぶな」と、いつも怒っていたオヤジなので、
今度は「おれの名前で遊ぶな」と言われそうな気がしないでもない。

この『早刷り岩次郎』の後半は、いまの日本経済と関係している。
不景気になり、財政難になり、粗悪な二部金を幕府はつくることでしのごうとする。
その人気のない二部金を、「二部金は使いやすいお金だ」と江戸の町民たちに宣伝してほしい、と言われた。
権力が、マスコミを買収しようとしたのである。
もちろん、釜田屋岩次郎は反抗する。レンジスタントを起こす。

山本一力さんの本は、江戸時代の話でありながら、現代に置き換えることができる本が多い。
ぜひ、この本を読んでほしい。

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