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2009年6月14日 (日)

鎌田實の一日一冊(25)『美しい朝』と『アントキノイノチ』

さだまさしさんから新しいCDアルバムが送られてきた。
『美しい朝』というタイトルである。
なかなかいいアルバムである。Photo

「ママの一番長い日~美しい朝~」は、13分の長い歌であるが、一つの物語を見事に歌い上げている。
まさしワールドである。
これは、1978年の大ヒット曲「親父の一番長い日」(これが12分30秒だった)のアンサーソングのようになっている。
「親父の一番長い日」の親父が亡くなって、あの世から妻をみ、妻をたたえ、妻をよろしくと語る不思議な歌である。

また、このCDには「いのちの理由」といういい歌がある。
「がんばらんば」という、長崎弁のラップみたいな歌も入っている。
がんばらんばとは、がんばろうという意味の長崎弁。
「がんばらない」のカマタの向こうを張って、敵対心も旺盛な歌をかつてワンコインシングルで発売していた。
さらにお買い得なのは、最近の最大の傑作「私は犬になりたい 490円」が入っている。

ぼくのおすすめは「ママの一番長い日~美しい朝~」と「私は犬になりたい 490円」。
ぜひ、このアルバム『美しい朝』を手に入れてほしい。

今度は、まさしさんから『アントキノイノチ』(幻冬舎、1400円)という本が送られてきた。
新作の小説である。
CDや本が次々に送られてくる。
こんなに次々と曲や小説を世に出して、この人はいったいどんな生活をしているのかと、ちょっと不思議に思ってしまう。

まさしさんは、コンサートで日本中を周り、お酒も好き、ゴルフもやる。
全国各地に友だちがいっぱいいて、コンサートのときには友だちが集まる。
その友だちを大事にしている。
いったい、いつ本や曲を書くのだ。

『アントキノイノチ』を読んだ。
障害のある人や高齢の人たちと一緒にいったグアムで、朝方の静かな時間、海岸べりのデッキチェアに座りながら、一気に読みきった。

Photo_2 へんてこなタイトルである。
この本が送られてきたとき、スタッフが、こう言った。
「さださんから、“アントニオイノキ”が送られてきました」
ぼくは、何のことかわからなかったが、小説のなかには、間違いやすいフレーズであることが書かれている。
ちゃんと計算されているのである。
がんの患者さんが、茅野市にある病院の緩和ケア病棟に入院した、なんていうストーリーも織り込まれている。

憎しみや恨みと、あたたかやさや愛情は、人間の心のなかで混沌とまだら状になっていることが、この小説を読むとよくわかってくる。
悪い奴がいる。
許せない奴がいる。
どこにでもそんな奴はいる。
でも、だんだんに時間がたてば、そんな奴の命も愛おしくなっていく。
アントキノイノチ。
時間というのは、どんな人の命も愛おしくさせてくれる不思議な薬なのだ。

主人公は、亡くなった人の遺品整理を行うエキスパートである。
“おくりびと”のような仕事である。
かっこいい先端医療とは違って、ぼくのやってきた地域医療もどこかで“おくりびと”の世界や、『アントキノイノチ』の主人公たちの世界に似ているところがあるなと思いながら、
感動して読んだ。
胸が熱くなる小説である。
アントニオイノキではなく、アントキノイノチ。
笑ったり、泣いたり、心を揺さぶられてほしい。

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