鎌田實の一日一冊(31)「ブルターニュ 死の伝承」
「ブルターニュ 死の伝承」(アナトール・ル=ブラース著、藤原書店)は、800ページ近い大著である。
フランスのブルターニュに住みついた人々は、ケルト人たちのなかでも最も「死」を身近に考える人々。
回りの人々に、神秘的な民族として畏れを抱かれていた。
このブルターニュのケルト人たちの言い伝えを書きとめたものである。
彼らのなかには、死者と生者の垣根がなく、生きる人がいる。
その人たちは熟達した語り部で、人が集まると、たくさんの死にまつるわる話をした。
本書は、その伝承をていねいに記録している。
「死んだふりをしてはいけない」という伝承は、笑ってしまった。
寄宿学校でいじわるをしようとして、死んだふりをしたら、そのまま死んでしまったという。
こんな笑いと悲しみと皮肉がごちゃごちゃになった話もある。
現実の厳しさを緩和するために、作られた伝承もある。
例えば、霊魂は牛の姿になって、悔悛の行をするものもいる。
金持ちの霊は、死後、小石が多く、まばらな雑草しか生えていない土地に放牧される。
貧乏人の霊は、豊かな牧草地に放牧される。そにはいくら食べても食べきれないほどクローバーや馬肥やしがいっぱいだ。
この両者を隔てているのは、低い石囲いだけ。
金持ちの霊は、貧乏人の霊がいい思いをしているのを見なくてはならないから、つらさがいっそう身にしみる。
逆に貧乏人の霊は、金持ちがみじめなありさまでいるのを横目で見ながら、自分の境遇をいっそうありかだく思うのだ。
「ああ、そうとも。この世とさかさまのことが起こらないのなら、なんのためにあの世があるのかわからないではないか」
こんな、現実の苦しさやつらさや悲しみを少し軽くするような、死後の話も語り継がれていた。
死にまるわる話だけで800ページにも及ぶ。
ちょっと勇気のある人、読んでみませんか。
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