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2009年7月23日 (木)

介護の新しい発想④

鷹巣のその後に思うこと

羽田澄子監督とお会いした。
「婦人之友」で、羽田さんと樋口恵子さん、そしてぼくとで、日本の介護の問題をあぶりだす鼎談をした。

終わった後、食事をしながら、映画の話になった。
羽田澄子さんは、『嗚呼、満蒙開拓団』について書いたぼくのブログを読んだという。
前半は、いい映画だと評価している。
後半の数行は、羽田澄子批判をしている。
それも読んでくれていた。

0906141 秋田県の鷹巣町は、かつて福祉先進地として脚光を浴びた。
その地域が、町長選によってリーダーが変わり、福祉が後退していった。
羽田監督は、鷹巣町が、日本の福祉先進地として先頭を走っていくところから、徐々に後退していくところまで、3本の映画を作っている。
ぼくは、インテリが泥臭い田舎に介入したため、地域の人はしらけてしまい、結局は住民自治が育たなかったのではないかと危惧を抱き、そのことを書いた。

しかし、誤りがあった。
羽田監督は、民主主義のあり方を問いたいと思い、映画を撮ったという。
福祉を推進しようとする元町長の岩川さんグループと、ソフトよりもハード(建物)を重視して街づくりをしようとする反岩川グループの対決を、どちらにも与せず、丁寧に追いかけた。
「岩川町長とは、一度も食事をしなかった」と羽田監督から聞いて、まさかと思った。
なんとなく、岩川さんグループを応援していると思っていたが、非常に浅はかな見方であったと反省した。

羽田監督の映画は、福祉の町づくりとか住民自治という切り口で、住民たちが全国各地で自主上映会をしている。
ぼくたちの町にもこの映画がやってきた。
特に上映会の主催者は、福祉の街づくりや住民自治に関心が高いので、福祉の街づくりをするのが○で、反対派は×という空気を生み出しやすい。
その空気が、マスコミによって全国に広がってしまった可能性はある。

でも、選挙をするのはその土地の人である。
そんな空気をマスコミが作り出してしまうと、地域の人は意固地になる。
おれらのことはおれらが決める、という反発が起こってくる。
それは当然のことだと思う。

岩川さんは町長選に破れた。
外の人間から見ると残念な結果になってしまったのだが、これが民主主義なんだと思う。
住民自治をさらに豊かに推し進めていくために、高い授業料をはらったのだ。

住民自治のことを考えるなら、外の人間はできるだけ手を出さないことである。
むりやり住民自治や民主主義を持ち込んでも、メッキはすぐにはげる。
ゆっくりと時間を待つ必要がある。
どうしても介入するなら、どんなことがあっても、選挙に勝ち抜いて、正しいことをやりぬく強い意思が必要である。
まわりの知識人が、ヤンヤヤンヤと煽ったり、東京の有名人が選挙カーに乗って応援しても、そういう選挙は勝てないと思う。
勝ったとしても、あまりいい勝ち方ではないのではないだろうか。

鷹巣町は残念な結果になった。090506
たしかに介護の先進地がつくられつつあったと思う。
だが、マスコミがいうほど完成したものではなかったように、ぼくは考えているが、
それでも日本の介護シーンを変える先進的な取り組みになりえたものが、つぶれてしまったのは残念でならない。

福祉のまち鷹巣に関しては、マスコミがいっぱい入りこみ、おだてすぎたと思う。
秋田の町の小さなまちづくりという意識が離れ、インターナショナルな町づくりとして、いわばワンダーランド化してしまった感が否めないような気がした。
介護は、実にリアルな世界での話だから、違う世界へワープしてしまうのはいいことではないと思ってみていた。
だから、鷹巣報道をするジャーナリストや大学教授たちを冷ややかにみていた。
ぼくは、岩川さんが町長をしていたときには、一度も行っていない。

全室個室の老人保健施設や、24時間体制の在宅ホームヘルプサービスの充実などはたしかに優れていたとは思うが、
やっぱり大事なことは、地域とどうつながるか。
その地域がもっている歴史とか風土とか文化とか、その町の福祉のサービスやシステムのなかに色や臭いがあることが大事なような気がするのだが、
映画やテレビや本や新聞でよむ範囲では、その色や臭いは感じられず、北欧型ならば、北欧にみにいったほうがいいのかなと思った。

介護あるいは福祉と住民自治は、密接につながっているように思う。
自分たちの町を自分たちの手でよくしようとする、民主主義の根幹があって、
介護にほどほどの税金の投入がなされながら、税金だけに頼らず、自分たちで作り上げていく感覚や、汗を流すことが大事なのではないかと思う。

茅野市の「福祉21ちの」は、まさにこの住民自治をめぐっての闘いだった。
この10年、住民が福祉の町づくりに計画段階から参画し、住民同士が協力しあい、町をよくしていこうとしている。
羽田監督はまさに、そのことにこだわって、どちらにも与せず、ていねいに住民自治のあり方を撮ってきたのだと聞いた。
もう一度、そういう目で見直してみないといけないと思った。
映画は深くておもしろい。
ちょっと表面的にみてきたことに、反省をしている。

先日、元鷹巣町長の岩川さんが、北秋田市長選に出て、公職選挙法違反容疑で逮捕されたと報じられた。
なんか、ひっかけられたのかなと思う。岩川さんらしくない。

鷹巣で行われた試みは、本当に残念だった。
時代や社会や地域を変える可能性があったのに、このまま消え去ってしまうのはなんとももったいない。
このチャレンジの失敗が、うまく次につながることを祈る。

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