鎌田實の一日一冊(27)
「あのね 子どものつぶやき」(朝日新聞出版編)
朝日新聞生活面のコラム「あのね」から収録し、文庫にした。
笑ってしまう。
ほっとする。
4歳になった娘の誕生日。
母が「大きくなったね。あっという間にお嫁にいっちゃうかな」とつぶやくと、
「だいじょうぶ。すぐ帰ってくるから」
映里穂ちゃん、おうちが好きなんだ。
6歳の陸くん。
蝉の脱皮をみて、
「お母さんは、ぼくの抜け殻やなあ」
抜け殻にならないように、お母さんは厳しい課題を与えられたように思って、笑った。
道郎くん5歳は、サイダーをコップに注いだ。
耳を近づけて、
「夏の音がするよ」
情感が豊かで、とてもすばらしい。
たしかに夏の音がするような気がする。
妻のさとさんのお父さんは、サイダーが好きだった。
「がんばらない」に書いたが、義父は、あったかくてやさしい人だった。
ぼくとは違って、きちんと自分のことは自分でする人だった。
大好きなサイダーをいろんなところにおいて、いつでも飲めるように用意周到だった。
亡くなっていくときも用意周到で、見事に人生の締めくくりをした人だった。
義父は、なんでサイダーが好きだったんだろうか。
そんなことを思いながら、義父がのこしていったサイダーを、一人であけて飲んだのを今も覚えている。
道郎くんの一言を読んで、義父はもしかしたら夏の音が聞きたかったのかもしれないと思った。
あと少しで夏がやってくる。
そんな季節に父は亡くなっていった。
もうすぐ、信州に夏がやってくる。久しぶりにサイダーを飲んでみようと思う。
義父を思い出しながら、夏の音を聞いてみようと思う。
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