伝説の男
外山滋比古さんの『思考の整理学』(ちくま文庫)が売れているという。
発売から21年かけて17万部売れていた本が、この2年で88万部まで伸びたという。
2年前に火をつけたのは、盛岡市のさわや書店である、と朝日新聞に書いてあった。
このさわや書店には、伊藤さんという伝説的な“本の虫”がいた。
しっかりと本を読み込み、気に入った本はポップを立てたり、ラジオ番組で紹介したりしながら、本の面白みを伝える本屋のプロフェッショナルのような男である。
ぼくの『がんばらない』(集英社)も、この男に発掘してもらった。
『がんばらない』は、ある時期、東京や大阪よりも、盛岡のさわや書店で突出して売れていた。
ぼくは、この本屋のプロフェッショナルにお礼を込め、2回、ボランティアで書店で講演会やサイン会をした。
外山さんの『思考の整理学』が売れている理由は、中身がおもしろいことがいちばんである。
コンピュータと人間の脳の違いを明確にしている。
この本がいま売れているのは、人間の脳の働きの大切さが際立つコンピュータ時代の現代だからこそという時代の流れがあり、そこに目をつけた本屋のプロフェッショナルはやはりさすがだと思う。
いい本はいっぱいある。
だが、残念なことに、みんなの手に渡らずに埋もれてしまっている本がけっこう多い。
それを掘り起こしてくれる人がいるというのは、とてもすてきなことである。
1年ほど前、この本屋のプロフェッショナルは、親の介護のため、本屋の仕事から離れた。
最近、偶然電話でゆっくり話す機会があった。
今も、本屋のプロフェッショナルとして、講演に呼ばれることがあるという。
「鎌田さんの本は、いつももって応援に出かけていますよ。盛岡から、鎌田さんの本をいつも注目していますからね」と言ってくれた。
『がんばらない』の後、『あきらめない』『それでもやっぱりがんばらない』など、本を次々と出しているとき、この男に意見を聞いた。
この男の評価を、ぼくは大事に思っている。
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