鎌田劇場へようこそ(28)「ジェニンの心」
2002年4月、ヨルダン川西岸の町ジェニンの難民キャンプを、アパッチヘリが無差別銃撃をし、軍用ブルドーザーが家々を押しつぶした。
5000人の人々が家を失った。
52人が殺されたといわれている。
2005年11月、ジェニンで再び悲しい出来事がおきた。
12歳のアフメドという少年がイスラエル兵に撃たれたのである。
イスラエルの病院で、脳死が宣告された。
そして、臓器移植の説明も受けた。
父親のイスマイルさんは、悲しみのなかで、わが子の臓器を提供することを承諾する。
息子の命を奪ったイスラエル人に、臓器提供することによって、イスラエルの人たちの気持ちを変えたかった。
イスラエル政府の政策を変えたかった。
そして、このまちで自分たちパレスチナ人の子どもたちが、安全に遊べるようになることを願ったのである。
アフメド君の心臓、肝臓、腎臓などは、イスラエルの大人や子ども6人に移植された。
ぼくは、この実話を知って、ずっとアフメド君のお父さんやお母さんのことが気になっていた。
そして、臓器を提供してもらったイスラエルの子どものお父さんやお母さんはどんな思いでいるのか、気になっていた。
昨年の夏、スイスのジュネーブで、講演をした際、ぼくはこの話を新しい絵本にしたいと思っていると話した。
すると、ジュネーブで国連の仕事をしている人たちが賛同してくれ、必死にアフメド君のお父さんやお母さん、心臓をもらった子どもたちを捜してくれた。
彼らを訪ねたいと思っていた矢先、今年の冬、ガザの悲劇が起きてしまった。
1315人がイスラエル軍によって殺された。
とくに痛ましいのは417人の子どもの命が奪われたことである。
この映画を見ながら、悲しみと怒りが交互に襲ってきた。
映画「ジェニンの心」は、ぼくが絵本にしたいと思ったアフメド君の話を描いている。
アフメド君の死から1年、父親はアフメド君の心臓や腎臓がどんな形で生き続けているのか確認しようと、イスラエルへの入国をはかる。
しかし、なかなかできない。
許可証をもっているにもかかわらずである。
入国審査の担当官は、「入国と子どもの死とは関係ない」と言って取り合わないのである。
父親は、がっかりする。
自分の息子の命は、あまり役に立っていないのではないか。
平和を構築する役に立っていないのではないか、と思う。
それでも父親は、数年後、自分の息子の心臓や腎臓で生きている子どもたちに会いたいと訪ね歩く。
そこでさらに父親は、本当の融和がおきていない現実に、肩を落とす。
長い歴史のなかで積み上げられた問題の大きさに、なす術もない。
しかし、人間の心は変えられるはずである。
イスラエルとパレスチナが理解しあうこと、そして、平和が築くこと。
これは人類の課題でもある。
みんなの勇気や英知を出し合って、それが実現することができるなら、世界の平和にもつながるのではないか、とこの映画をみて思った。
この映画は、来月開催のUNHCR難民映画祭・東京で上映される。
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