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2009年9月

2009年9月30日 (水)

お伊勢参り③

~~式年遷宮の経済効果~~

生命の循環と天照大神の永遠の若さのため、20年に一度、式年遷宮が行われる。
690年持統天皇以来、戦国時代の100年ほどをのぞくと、ずっと遷宮を行い続けてきたという。
714種類、1576品の、布や着物、刀、食器類など、日常必需品をつくりかえ、それを新しい遷宮のお社に入れ替えるという。
社殿をつくる宮大工の技術だけでなく、漆職人の技術、刃物をつくる技術など、20年に一度の大祭によって維持しようとしている。
しかも、大きく消費を喚起させている。0909205image365
天武天皇や持統天皇はそこまでは予想していなったと思うが、経済のしかけとしては見事だと思う。
毎年行われていると、消費の喚起を起こす前に疲弊してしまうが、20年に一度という区切りが民衆に祭り心を起こさせ、気持ちを躁状態にさせ、そして経済に刺激を与えている。
靴や枕、食器類などは、全国の神宮へ記念品として下され、祭られたり、陳列されたりしているという。
社の棟持柱などは、その後の20年は宇治橋の鳥居に使い、さらにほかの神社の鳥居として使われるという。
諏訪大社の御柱は7年に一回建て替えられる。
諏訪大社の7年と、伊勢神宮の20年の違いは何だったのだろう。
伊勢神宮のお祭りのなかに、諏訪の御柱祭りのように丸太を引き上げ、そして、同じ宮川という名前の川で、奉納する前のご神木を清める。
諏訪の御柱祭りと伊勢神宮の式年遷宮は似ているなと思った。

写真は、内宮の近くを流れる五十鈴川

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ホスピタルコンサート2009(1)

2009年8月9日、諏訪中央病院で行われた第19回ホスピタルコンサート。 今年も畑中良輔先生の名司会で繰り広げられた。 病院のホールには約400人の観客が集まり、たいへん盛り上がった。

最初は、テノール下野のぼる先生、メゾソプラノ永井和子さん、バリトン吉澤哲夫先生のすばらしい歌声をお聞きください・・・。

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2009年9月29日 (火)

お伊勢参り②

~~南方の影響はみられるか~~

今年3月、イースター島からタヒチ島へと船で旅をした。

イースター島では、モアイの台座に当たる神殿をアフといい、石が大事な役割をしていた。
タヒチ島では、先住民の村に行き、祈りの場所を見せてもらった。
マラエという石の神殿の遺跡がいくつも残っていて、みてあるいた。
ポリネシアの石の遺跡と、伊勢神宮が似ているのではないかと、船旅で一緒だった池田香代子さんは言う。
ぼくは伊勢神宮を見たことがなかった。0909204image364
とにかく一回、伊勢神宮をみてみたい。
そして、南側からの影響があるのか、それを確かめたい。
それが、今回の伊勢参りの動機だった。

もともと伊勢神宮の御師(おんし)であった太郎館(たろうだち)さんの説明を受けながら、伊勢神宮の中をみてあるいた。
御師とは、お寺でいうなら宿坊のようなもので、参拝する人たちを案内し、宿泊の世話をする人のことである。
太郎館さんのうちは、毎年3万9000枚のお札を売り、それを買った人たちが伊勢参りをしたとき、無料で泊めたという。
もちろん、お金に余裕のある人はお礼としてお金を置いていくが、原則的には無料。
こういう旅が、江戸時代にはやったという。

太郎館さんのご先祖のような御師たちが、日本中をまわって伊勢信仰を広めていくのに一役買った。
時代とともに御師たちは、お札をつくらないようになり、多くは神主になられたという。

太郎館さんの説明によると、伊勢神宮の内宮と外宮の中に125の末社があるという。
まず、外宮からお参りをした。
太古の何かを感じさせる、無駄を廃した、唯一神明造(ゆいいつしんめいづくり)。
装飾をほどこしているいつくかの留め金などは、中国の影響を感じさせる。
日本古来のものといいたいのだろうが、やはり中国からの影響は受けている感じがした。
千木(ちぎ)もみえた。
勝男木(かつおぎ)もみえた。
しかし、イースター島のアフやタヒチ島のマラエとはまるで違う空気が漂っていた。

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2009年9月28日 (月)

お伊勢参り①

~~欲のお祓い~~

0909201image359 お伊勢参りをするために、夜遅く鳥羽のホテルに泊まった。
山の中の生活をしているので、できるだけ海が見える宿を選んでいる。
海を見ると、何か感じられる。
この日も、いつものように朝4時半に起きて、海を眺めた。

ぼくたちの血や文化は、黒潮の流れに乗って南側からもやってきているはず。
柳田国男は紀伊半島の突端に立ち、流れてきた椰子の実に、南からの海の道を思いついた。0909202image363
発生学を通して、われわれはどころから来たのか、科学的に教えてくれた東京医科歯科大学・元助教授の三木成夫先生は、この黒潮に流れる海に向かって立ち、自分たちの体を構成する細胞のひとつひとつに、海から陸へと進化した生命の記憶が刻み込まれていると語った。
写真は、そんなことを思いながら、早朝撮ったものである。

0909192image356 海を感じながら、鳥羽市にある大阪屋というすし屋に入った。
とにかく伊勢に来たのだから、伊勢えびを食べたいと思った。
遅い時間だったので、店じまいに近く、ほとんどお客さんもいなかったが、予約をしておいたので、伊勢えびだけはとっておいてくれた。
鳥羽でとれたウニと伊勢えびが旨かった。0909193image357
松阪牛のあぶりを握ってくれた。
はじめて食べた。
本当にやわらかで、脂っこすぎず、さっぱりしすぎず、なんともいい加減であった。
伊勢えびの頭を入れた赤だしの味噌汁が抜群においしかった。
伊勢神宮では、今も天照大神に、豊受神宮で1日2度の食事の用意をしているという。
天照大神はアワビが好きだったという。
なので、ぼくはアワビは食べないことにした。

0909191image355 お伊勢参りは江戸時代には人生最大のイベントであった。
旅を通して、見聞を広げたり、新しい食べ物を食べたり。
お伊勢参りをした後に聞いた話であるが、お伊勢さんの裏へ抜けていくと遊郭がぎっしりと広がっていたという。
食欲だけだなく、いろいろな人間の欲望のお祓いをしていたのだろうか。
大阪屋でおいしいものを食べ、まず、食欲のお祓いができた。

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2009年9月27日 (日)

尊厳死について考える

茅野市のボランティアグループ「いのちの輝きを考える会」は、生きること、死ぬことを大切に思い、人任せでない自分の生き方を考えることをモットーにして、勉強会を開き、普及活動をしてきた。
リヴィングウィル(尊厳死の宣言書)を示した尊厳死の意思表示カードも発行している。

参加者は、茅野市の住民が521人。
県内では約1500人、県外は北海手道から沖縄まで全部で214人。
タレントのピーコさんも賛同し、この会に入会している。

自分が不治の病で死期が近いと診断されたときには、死期を引き伸ばすための延命処置はいっさいお断りすること。
この場合、苦痛をやわらげる処置は最大限にお願いすること。
自分がいわゆる植物症に陥り、意識の回復の見込みがないと、2人以上の医師が診断したとき、家族の同意を条件に、いっさいの生命維持装置を止めてほしいということ。
そんな意思を明確に示した尊厳死の意思表示カードを、ぼくも、妻のさとさんもそれぞれがサインして持っている。
突然不慮の事故で意識がなくなったときにも、自分の意思が働くように、尊厳死の意思表示カードをいつも財布の中に入れている。

入会金の1000円で、この尊厳死の意思表示カードを発行してもらえる。
尊厳死の勉強に興味がある人は、勉強会に参加することができる。
ご連絡は、いのちの輝きを考える会080-5017-3007へ。

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2009年9月26日 (土)

ヴラダン・コチのコンサート

10月6日、チェコのチェリスト、ヴラダン・コチがやってくる。
現在、プラハ音楽院のチェロ・室内楽教授として教鞭をとりながら、世界各地で演奏活動を続けている。
世界各地でコンサートを開いた後は、恵まれない子どもたちの施設や病院などに赴いて、ボランティアで音楽を届けている。Dsc01406

彼は、1988年祖国チェコスロバキア(当時)の兵役を拒否して捕らえられた。
自由を求め、共産主義国家に弓を引いたことで、国からは「一生音楽はさせない」といわれた。
良心の囚人となったのである。

1年後、ビロード革命が起こり、民主化運動は成功を遂げた。
コチは解放され、自由を手に入れた。
彼の元に音楽が戻ってきた。
投獄中、アムネスティインターナショナルやドイツに亡命中のルーマニアの音楽家たちなど、たくさんの人たちが彼の釈放を求め、妻と幼子を支えてくれていたことがわかった。
コチは、彼らに感謝した。
そして、自由と、再び音楽を手にしたコチは、世界各地で音楽を求めている人のもとに赴いて、チェロを奏でている(コチは、写真の左から2番目)。

Furusato_m 昨年夏、プラハでレコーディングしたクラシックCD『ふるさと~プラハの春~』の収益は、チェルノブイリやイラクの病気の子どもたちの薬代として使われている。
10月6日のコンサートの一部収益も、病気で苦しむイラクやチェルノブイリの子どもたちの医療費に充てられる。

前半は、鎌田實のあったかトーク。
後半は、ヴラダン・コチおもいやりコンサート。
ピアノの有吉英奈さんも演奏してくれる。

心をつつみこむあたたかい音楽を、ぜひ聞きにいらしてください。
まだ90席ほど余裕がありますので、お早めにお申し込みください。

第758回10月例会(社団法人むさし府中青年会議所創立40周年記念事業)
鎌田實あったかコンサート
ヴラダン・コチおもいやりコンサート

10月6日(火)18時開場、18時30分開演
府中の森芸術劇場ウィーンホール
入場は無料
 ※事前に申し込みが必要です

申し込みは、名前(ふりがな)、住所、電話番号、参加人数を明記し、FAX042―368-3890へ。
詳しくは、社団法人むさし府中青年会議所℡042-362-1090(平日10時~16時)か、
こちらのHPへ。

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2009年9月25日 (金)

幸せな本

名古屋からある人が諏訪中央病院を訪ねてきた。
3年前、末期咽頭がんといわれたという。
娘さんから、「この本読んでみて」と渡されたのが、ぼくの『がんばらない』(集英社)。
最初は、末期がんで余命も少ないのに、なんでいまさら、と思ったという。Photo
しかし、入院中は何もすることがなく、なんとなしにぼくの本を読みはじめた。
読み始めると夢中になり、治療の合間を縫って読んだ。
三回読み直したという。

「死ぬということに、あまり抵抗感がなくなった」とその人は話してくれた。
「なんとかなるでしょうと、自然に思えるようになった」という。
その甲斐があってか、病状はめきめきよくなった。
現在は頼まれて、小規模多機能施設の施設長として働いているという。

わざわざぼくに会いに、10人ほどと一緒に来てくれた。
ほかの方々もみんながんを患ったが、ぼくの本を回し読みしながら、心の元気をつくっているという。
『がんばらない』『あきらめない』を元気がなくなった人たちにおすすめすると、みんな喜んでくれると話してくれた。

全国を講演で訪ねていても、とにかくにぼくの本を読んで、元気をもらったと声をかけてくれる人が多い。
幸せな本だと思う。

写真は、木の葉が色づく岩次郎小屋

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2009年9月24日 (木)

週末は諏訪中央病院祭

シルバーウィークも終わり、今週末の26日はいよいよ諏訪中央病院祭が開かれる。

イベントは盛りだくさん。
病院の庭では、グリーンボランティアたちによって季節の花やハープがいつも楽しめるようになっているが、そのハープなどを販売するグリーンバザーも行われる。
おでん、焼きソバ、フランクフルト、綿菓子などの販売もある。

11時~12時は、創作劇「風と土」。ドクターが中心になって上演する。
14時~15時30分は、ほろ酔い勉強会。歯科口腔外科部長の上原先生による「歯と歯ぐきの病気と生活習慣」、在宅診療部長の高木先生による「健康のための生活習慣―ワンポイントアドバイス―」。
13時~13時40分は、川江美奈子さんのピアノコンサート。
14時40分からは、看護師長たちのフラダンスショー。
そのあいまには、アルコール依存症の酒害者の会の人たちの話や健康チェックコーナーなどもある。

諏訪中央病院は、今井澄先生や鎌田實らが起こした第一のニューウェーブから35年。
いま全国から情熱的で優秀な若い医師たちが集まり、第二のニューウェーブを起こしつつある。
ラウンジでは、今井澄先生をとりあげた「聴診器を温めて」のビデオ上映会もあり、病院の歴史を知ることができる。

病院祭は、9時30分から16時15分まで。
病院の新しい空気を吸いにきてみませんか。
健康の新しい情報や癒しの時間を共有できると思います。
お待ちしております。

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鎌田實の一日一冊(38)

コレステロール 嘘とプロパガンダ』(ミッシェル・ド・ロルジュリル著、篠原出版)

「コレステロールは心筋梗塞などに影響しない」ということを、いくつものデータを検証しながらまとめた本である。
著者は、基本的にはコレステロールは、まったく心筋梗塞の血栓をつくる原因になっていない、粥状動脈硬化の原因にもコレステロールは関係しないという。
血小板が凝集して、血管の壁にこびりついたりしながら、心筋梗塞や動脈硬化がおきるのだという。
300ページをこす大著である。

ぼくは『ちょい太でだいじょうぶ』(集英社)のなかで、「ちょいコレ」がいいと書いてきた。
「ちょいコレ」とは、コレステロール値がちょいと高いということ。
コステロール値の正常値は220とされているが、ぼくは240から260までは心配ないと思っている。
この本を読んで、ますます、ぼくの「ちょいコレ理論」に自信を深めた。
ただし、ロルジュリルの言うように「おおコレ」でもいい、大幅にコレステロールが増加していても心配ないとは、ちょっと言う気がない。

この本では、コレステロールを防ぐ薬が、かえって害になっていることも示している。
この点は参考になる。
自分の外来でも、コレステロールの薬を処方するときは、生活習慣の改善だけで、薬なしでできないかどうか、もういちど見直してみたいと思っている。

著者は「おおコレステロール」は長寿の指標であると言い切っている。
動脈硬化学会などで、この著者を招待し、コレステロールを下げるべきかどうか議論するとおもしろい。

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2009年9月23日 (水)

がん難民からの回復

東京から、ぼくの外来にセカンドオピニオンを受けに来たご夫婦がうれしい報告に来てくれた。

2年半前、はじめてお会いしたときは、奥さんは乳がんで、どこの病院にもかかっていなかった。
ナントカ温泉にいったり、民間療法をしているだけだった。
いわゆるがん難民。
乳がんの部分は壊死に陥り、出血し、たいへん厳しい状況に追い込まれていた。
しかし、すぐに東大の放射線科の中川先生に紹介した。090914image346
放射線治療は効を奏し、現在はたいへんいい状態になっている。
中川先生のご本にも、実名、写真入りで協力したり、学会で「がん難民から回復して」というシンポジウムに参加いただいたり、研究会でもご自分の経過を公表してくれた。
がん難民になり、途方に暮れている方の役に立てばということで、ぼくのエッセーにも何度か書かせていただいたこともある。

ご主人は肺がんがあった。
心筋症があることと腎機能不全があること、そして年齢を考慮して、ぼくは重粒子線治療をすすめた。
医師も紹介し、予約もとってさしあげた。
その治療が成功し、2年半、今のところ完治状態が続いているという。

今回のうれしい再会を、ブログにのせてよろしいですか、とお願いしたら、
どうぞなんでも利用してください、と温かなお答えであった。

がんだから、もうだめと考えてはいけない。
いろいろいい治療法はあるのである。
がんばりすぎる必要はないが、あきらめてもいけないし、なげだしてもいけないのである。
無理をしない、いい治療があるということである。

東京から来られたご夫婦に再会し、お2人ともに今のところいい成果がでて、バンザイ。
3人で、うれしいいときを過ごした。

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2009年9月22日 (火)

北部イラクの今 第3回

シリーズ「北部イラクの今」 ―平和と病院と難民キャンプ― 第3回 スレマニアの街と小児血液病センター

2009年8月、JIM-NETのイラク医療支援活動のため、医師・鎌田實は今年もイラクに入国した。
イラク北部の街スレマニアは、土壌も肥沃で緑があり、街には車があふれていた。
平和な街の小児血液病センターを訪れた。

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新型インフルエンザに負けない⑲

~~広がる深刻な感染例~~

新型インフルエンザに感染し、特に合併症もない、元気な24歳の方が亡くなられた。
横浜と滋賀県では、小学生が亡くなられた。

新しい感染症が発生すると、はじめの数十例の感染例だけをみて、若い人だけが危ないとか、お年寄りだけが危ないなど、全体の傾向を読みがちであるが、全年齢層にわたって注意する必要があると思う。

おそらく肺の間質が水浸しになるような事態がおきて、頭がぼうっとして呼吸困難に陥るARDS(急性呼吸窮迫症候群)という状態に陥っている可能性がある。
肺の間質の炎症が強まると、間質のなかを走っている血管で、酸素と二酸化炭素の交換ができなくなるために、急激に息苦しさが増していくのである。0909163mage349
数日、レスピレーター(人工呼吸器)管理が必要になる。
間質の炎症がおさまれば、また自然に呼吸ができる。
多くの場合は後遺症なく治るのであるが、この数日、耐えられるかどうか。
その間に多臓器不全といって、腎臓の機能などが低下し、出血傾向がおきだして、脳内出血など致命的な状態に陥ってしまうともある。

もちろん肺炎だけでなく、ウイルスによって起こる脳炎も怖い。

サイトカインストームといって、インフルエンザウイルスが引き金になり、一種のアレルギー反応のようなものが起きている可能性も高い。

新型インフルエンザは弱毒性で、多くの場合、重症にはならない。
だが、特に、「意識がもうろうとした状態になる」「呼吸が息苦しそうになる」という2つの症状が起きたときには命にかかわる場合がある。
新型インフルエンザといわれたら、この2点をよく気をつけておく必要があると思う。


写真は、秋らしいやわらかな日差しが差し込む岩次郎小屋のテラス

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2009年9月21日 (月)

岩次郎小屋の四季

0909181image352 岩次郎小屋に秋がやってきた。0909183image354

今までは読書をするとき、木陰を求めていたが、いまは少し日が当たるところが心地よい。
日差しがありがたい季節になった。

岩次郎小屋には、ぼくの読書スポットが4つほどあるが、この季節に心地よいのが写真の2つ。0909182image353

鳥の鳴き声や、風の音が聞こえ、なんともリラックスできる。

咲き誇るコスモスも風に揺れて、うれしそう。

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2009年9月20日 (日)

鎌田劇場へようこそ(28)「ジェニンの心」

2002年4月、ヨルダン川西岸の町ジェニンの難民キャンプを、アパッチヘリが無差別銃撃をし、軍用ブルドーザーが家々を押しつぶした。
5000人の人々が家を失った。
52人が殺されたといわれている。

2005年11月、ジェニンで再び悲しい出来事がおきた。
12歳のアフメドという少年がイスラエル兵に撃たれたのである。

イスラエルの病院で、脳死が宣告された。
そして、臓器移植の説明も受けた。
父親のイスマイルさんは、悲しみのなかで、わが子の臓器を提供することを承諾する。
息子の命を奪ったイスラエル人に、臓器提供することによって、イスラエルの人たちの気持ちを変えたかった。
イスラエル政府の政策を変えたかった。
そして、このまちで自分たちパレスチナ人の子どもたちが、安全に遊べるようになることを願ったのである。

アフメド君の心臓、肝臓、腎臓などは、イスラエルの大人や子ども6人に移植された。

ぼくは、この実話を知って、ずっとアフメド君のお父さんやお母さんのことが気になっていた。
そして、臓器を提供してもらったイスラエルの子どものお父さんやお母さんはどんな思いでいるのか、気になっていた。

昨年の夏、スイスのジュネーブで、講演をした際、ぼくはこの話を新しい絵本にしたいと思っていると話した。
すると、ジュネーブで国連の仕事をしている人たちが賛同してくれ、必死にアフメド君のお父さんやお母さん、心臓をもらった子どもたちを捜してくれた。
彼らを訪ねたいと思っていた矢先、今年の冬、ガザの悲劇が起きてしまった。
1315人がイスラエル軍によって殺された。
とくに痛ましいのは417人の子どもの命が奪われたことである。
この映画を見ながら、悲しみと怒りが交互に襲ってきた。

映画「ジェニンの心」は、ぼくが絵本にしたいと思ったアフメド君の話を描いている。
アフメド君の死から1年、父親はアフメド君の心臓や腎臓がどんな形で生き続けているのか確認しようと、イスラエルへの入国をはかる。
しかし、なかなかできない。
許可証をもっているにもかかわらずである。
入国審査の担当官は、「入国と子どもの死とは関係ない」と言って取り合わないのである。
父親は、がっかりする。
自分の息子の命は、あまり役に立っていないのではないか。
平和を構築する役に立っていないのではないか、と思う。

それでも父親は、数年後、自分の息子の心臓や腎臓で生きている子どもたちに会いたいと訪ね歩く。
そこでさらに父親は、本当の融和がおきていない現実に、肩を落とす。
長い歴史のなかで積み上げられた問題の大きさに、なす術もない。

しかし、人間の心は変えられるはずである。
イスラエルとパレスチナが理解しあうこと、そして、平和が築くこと。
これは人類の課題でもある。
みんなの勇気や英知を出し合って、それが実現することができるなら、世界の平和にもつながるのではないか、とこの映画をみて思った。

この映画は、来月開催のUNHCR難民映画祭・東京で上映される。

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2009年9月19日 (土)

発見!特B級グルメ(78)

0909164image350 田原総一郎さんが主催する琵琶湖塾に、講演で呼ばれた。
大津へ行く途中、京都で時間ができたので、地元の人においしい、変わったどんぶりものはないか、聞いた。
あそこなら、おいしいものが食べられる、と紹介されたのが「はしたて」というお店。

鯛のごま味噌丼。
初めて食べた。
生の鯛に、ごまたっぷりの油味噌があえてあり、ごはんとよくマッチしている。
京都らしく、ゆばとにゅうめんの吸い物、漬物がついて1365円。

味を締めているごま味噌がおいしい。
鯛だから、とても高級感があるが、このごま味噌は、もしかしたら鯛以外でもいい。
魚でも、肉でも合うのではないか。

我が家は、ごまの消費量がものすごい。0909165image351 いつも常備していて、うどんやそうめんに、どっさりかけて、温野菜とともに食べる。
実は、この食べ方は京都の「おめん」という店からヒントをいただいた。
「おめん」のめんは、やや柔らかいが、各地の好みのうどんやそうめんを取り寄せて、鎌田流にアレンジして食べている。
あっさりしがちなめんだが、やはりごまがいいアクセントになる。

この鯛のごま味噌丼も、ごまがミソかも。

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2009年9月18日 (金)

9/26 諏訪中央病院祭

秋の諏訪中央病院で、病院祭が行われる。
健康チェックコーナーや病院の歴史を知ることができる懐かしいビデオ上映会、おでんや焼きソバの販売、トン汁の無料配布など盛りだくさん。0908044
ひまわり作業所による販売会やグリーンボランティアによるグリーンバザーもある。
イベントは、11時~12時は、職員や医師たちが創作劇を上演する。
13時からは、川江美奈子さんのピアノコンサート。
今井美樹や中森明菜などにも楽曲をプレゼントしている作曲家兼ピアニストである14時~15時30分までは、ほろ酔い勉強会も行われる。
健康のための生活習慣病ワンポイントアドバイスと、歯と歯茎の病気について、それぞれ専門の医師がわかりやすく話してくれる。

26日9時30分~16時15分まで、一日たっぷり楽しめるので、ぜひおいでください。

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介護の新しい発想⑤

~男の井戸端会議~

茅野市内の男性から、うれしい手紙をいただいた。

ぼくは、「介護はゴールのないマラソン競争」と話したことがある。
このごろ、男性の介護者が全体の3分の1を占めるまでに増えてきて、
想像を超える、いい介護をしている。
けれど、それゆえに、心配な点が2つほどあると思っている。
1つは、一生懸命やりすぎて、完璧主義になりすぎる。
社会サービスを上手に使わない人も少数いる。
もっと社会サービスを信用して、上手に使いながら、息長く介護を続けたほうがいい。
もう1つは、女性のように井戸端会議の経験があまりないということ。
地域に仲間がいない。
男は長年、外で働くことに一生懸命で、寝る時間以外は地域で過ごしていない。
なんでも愚痴を言い合える井戸端会議のようなものが男性介護者の周りにあるととてもいいと思っている。
育児に悩むお母さんだって、公園デビューをすることによって、新しい情報を得たり、仲間をつくり、愚痴を言いあうことで、心のリフレッシュをはかっている。
これも、今の時代の井戸端会議だ。

いい介護をしている男性たちが、どこかで集まれる場所ができないだろうか。
そんなぼくの提案に、この手紙の男性は耳を傾けてくれた。
手紙によると、茅野市の社協が協力してくれ、まず男性介護者7人で、新しいグループができたという。
男性介護者は、なかなかいい介護をしていることが多い。
男の介護教室や男の料理教室など、できれば各地に男性介護者がつながれるグループが増えていくといいなと思っている。

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2009年9月17日 (木)

北部イラクの今 第2回

シリーズ「北部イラクの今」 ―平和と病院と難民キャンプ―

第2回 治安の良いアルビルの街並みと小児白血病センター

2009年8月、JIM-NETのイラク医療支援活動のため、医師・鎌田實は今年もイラクに入国した。
イラクでは比較的治安の良い町アルビルで、小児白血病センターを訪れ、必要な支援の確認をした。

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核のない世界を

オバマ大統領は、プラハで、核兵器のない世界の実現に向けて、行動する責任があると語った。
核兵器を使ってしまった国の責任があると訴えたのである。

チャンスである。
日本のセイフティーネットをしっかりさせるためにも、ずっと核の傘に入り続けて身をすくめているのではなく、
日本が先頭を走り、核のない世界を目指すべきではないかと思う。

0909161image347 オバマが感動的な演説をしたプラハの広場を、ぼくも昨年の夏訪ねた。
それは、1968年、プラハの春で、民衆が立ち上がり100万人の市民がこの広場を埋め尽くしたところ。
しかし、ソ連(当時)の戦車が乱入し、若者たちの自由の叫びは消えた。
その後の1989年、ビロード革命がおきた。
それから20年たった今年、オバマのプラハ宣言がこの広場で行われたのである。

一度や二度たたかれて挫折しそうになっても、正しいことを求めてあきらめなければ、世界は変えられる、とぼくは思う。
それが今実現しようとしている。

今年の8月9日、長崎の原爆の日に、イラクのハラブジャの市長が、世界の平和を目指す世界の市長に呼びかけ、核兵器や化学兵器のない世界にしようと集まったという。
すぐには国連は動きだせないかもしれないが、平和を求める市長の動きは、オバマのプラハ宣言の後押しをするだろう。
幸いなことに、国際原子力機関の事務局長に日本人が選出された。
そして、日本は政権が交代した。
もしかしたら時の利かもしれない。
日本が「核のない世界」の実現をリードしていけるチャンスがきているような気がするのである。
そして、戦争にブレーキをかけていくメッセージを発信していかなければならない。

日本は海上での給油活動をしているが、アメリカと話し合い、アフガンの市民が助かるような医療支援、生活支援にお金を使い、
泥沼のテロとの闘いをしているアメリカの方向を変えられるように後方支援をすることができないだろうか。
そうすることによって、新しい前向きな日米の関係を築いていくことができるのではない。
日本の新政権は、きちんとストーリーを描くことができるかどうか、それを世界に伝えることができるかどうかが問われているように思う。

写真は、どことなく秋めいてきた岩次郎小屋の庭

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発見!特B級グルメ(77)

博多のグルメ第3弾は、イカの刺身。L1080064
博多に来ると、いつも「河太郎」でイカを食べる。
泳いでいるイカをその場で上げて、刺身にしてくれる。
残りは、お好みで塩焼きや天ぷらに。
イカづくしである。
ここのイワシのフライも旨い。

信州ではあまりおいしい魚を食べられないので、海のあるところに行くと積極的に魚を食べる。
博多では、イカ。
EPAやDHAなどのいい脂が含まれているだけでなく、動脈硬化を予防してくれるというタウリンも含まれている。
博多にきたら、ぜひ、ここの新鮮なイカを食べてほしい。

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2009年9月16日 (水)

この人に会いたい(2)医師・増田進先生

地域医療の神様、増田進先生は、今も元気で、本物の医療を目指している。

かつて、日本中から見学者が絶える日がないほど注目されていた岩手県の沢内村の地域医療。
ぼくが諏訪中央病院で病院づくりをするときも、増田先生に教えられることが多かった。
人間的にもすばらしい方で、毎年、沢内村の先生のお宅を訪ねたり、岩次郎小屋に来ていただいたり、
京都や北海道、沖縄で落ち合ったりしながら、旧交を温めている。

沢内村の病院を定001年退職した後、岩手県の田老病院の院長をつとめた。
それも2年前にやめ、雫石新スキー場に緑陰診療所を開設した。
増田先生は「ゾーンディフェンス」という言葉をよく使っていた。
「地域医療は、ゾーンで守るのだ」と。
その増田先生が、緑陰診療所で、ゆっくりと患者さんの声を聞く医療を行っている。
得意な針を使って、痛みや難病などに対応する。
今の医療に見放された人たちが、遠くから集まってくるという。
いまは、究極のマンツーマンディフェンスを目指しているみたいだ。

医療というのは、地域で守る「ゾーンディフェンス」というシステムと、医師と患者との関係で成り立つ「マンツーマンディフェンス」の、両方のバランスがいい・かげんに大事なはずである。
増田先生は、医師人生の最後に、究極のマンツーマン医療の集大成を築こうとしているように思える。

もうすぐ先生の『森の診療所の終の医療』(講談社)という本が出版される。
「今こそ必要とされる人間を診る医療の原点がここにある。かつて日本中から注目された沢内村の地域医療を築いたわが師・増田進は今も、真に住民のための医療を求め続けている」
ぼくは、そう帯に書かせてもらった。

オーディオマニアで、自らもフルートを吹く。
巨大なオートバイにまたがり、冬になると颯爽とスキーをする。
ご夫婦でテニスをする。
70代で相変わらずエネルギッシュなご夫婦のペアに、今年、日光で完敗した。
そして、何より、増田進先生は、地域医療の原点を求め続ける本物のプロフェッショナルである。

写真は、増田先生(左から2番目)らと沖縄を訪ねたときのもの。鎌田は左から3番目

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発見!特B級グルメ(76)

今日も、昨日に続いて博多の特B級グルメシリーズ!
「水炊き」もこれから紹介する「もつ鍋」も定番かもしれないが、なんとなく食わず嫌いだったぼくにとっては、「発見」であった。

博多でタクシーの運転手さんにB級グルメを訊ねると、たいてい「もつ鍋」という答えが返ってくる。
ホルモンは、岡山のホルモンうどんとか、厚木のシロコロなどおいしいものがある。
実際、食べてみると、これぞB級グルメという旨さである。
このブログでも「ぜひ食べてほしい」と推奨してきた。

だが、実を言えば、ぼくはホルモンが苦手。
とくに「もつ鍋」は、びくびくする。
この日も、乗るタクシー、乗るタクシー、運転手さんから「博多に来たら、やっぱりホルモンを食べなくちゃだめだ」と言われた。
しかも、こんなことを言う運転手さんまでいた。L1080073
「ぼくは明日、お見合いなんですが、どこのもつ鍋屋に行こうか迷っています」
お見合いでもつ鍋屋? というのもどうなんだろうか、と思いながら、
その運転手が「絶対にオススメ」という「もつ幸」というお店に行ってみることにした。
「もつ幸」は、もつ鍋もいいけれど、餃子がいいというので、もつ鍋が自分に合わなくても、餃子という逃げ道がある。
観光ブックには、もうちょっと有名なお店がいくつかあったが、地元の人たちがすすめる店のほうがいいかなとも思った。

その「もつ幸」にタクシーで行くと、店の前でお客が並んでいる。
予約したので、並ばないですんだ。
おそるおそる入る。
ここまできたら、もつ鍋を食べないといけないが、まだ半分恐怖感がある。
顔が引きつっている。

3人で行ったが、食べきれるかかわらないので2人前をお願いしたら、3人座った以上は、最低限3人前以上は食べてもらわないと困りますといわれた。
普通の人は、3人で4人前か5人前食べるという。
しかたないと思い、びくびくしながら3人前を頼むことにした。

キャベツがいっぱい入っていて、胃や腸に関係しそうな部位が、細切れでゴタゴタ入っている。
見てくれは、怖い。
だが、勇気をもって食べてみるとこれが、じつに旨い。
味噌味の店もあるようだが、この店のは鶏がらの骨髄スープのようなもので、味はつけていないという。
葉っぱの唐辛子と、博多に来てからクセになりそうになっている柚子胡椒をたっぷりつけて、もうモリモリ、バリバリである。
あっという間に3人で3人前を食べきった。

L1080074 いつもならここで止めるのであるが、ちゃんぽんめんをスープに入れて食べることにした。
大量のゴマをいれて、だし汁がなくなるくらいまで煮込む。
見かけは焼きソバかと思うくらいまで煮て食べるのである。
ゴマがうまく合って、やっぱり柚子胡椒がきき、あっという間に平らげた。
本当にあっという間という感じである。
B級グルメの王様かもしれない。
食わず嫌いはいけないと、つくづく思う。

一口餃子もまた、旨かった。
1皿に10個というから、3人で1皿頼んだら、あっという間に食べ切って、2皿追加した。

博多の食文化はすごいと思った。
今までは、魚を食べることを心がけて、すし屋や和食屋に入っていたが、ちょっと考えを改めた「もつ鍋」であった。

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2009年9月15日 (火)

発見!特B級グルメ(75)

博多の中州川端というところにある博多味処いろはという水炊き屋さんに行った。
地元では有名らしい。

L10800501年に2、3回、福岡に行くが、博多というとどうしても博多ラーメンを食べてしまう。
子どもから水炊きをすすめられてはいたが、なぜか食指が伸びなかった。
食わず嫌いはいけないといいながら、ちょっと思い込みがあったようだ。

ぼくは、お米が好きで、カツ丼とか天丼とかカレーライスとか、ご飯もののB級グルメが大好き。
だから、水炊きは今までノーサンキューだった。

だが、今回、娘のすすめる店で食べてみた。
うまいのである。
まず、韓国料理のコムタンのような、骨と骨髄の出汁がらで白くなったスープに、かしわが入った鍋がやってくる。
目の前で、熱々のスープだけをすくってくれ、そのなかに柚子胡椒を入れて飲む。
この柚子胡椒がぴったり合う。
これがなかったら、茶碗半分くらいでもういいと思うが、柚子胡椒のおかげで、3杯ほどおかわりをした。
気に入った。

次に、鶏肉のつみれをポイポイと鍋に入れていく。
さらにキャベツやえのきだけ、豆腐、ネギ、ニンジンなどが投げ込まれる。
鶏のつみれは絶品であった。
とにかくうまい。
こんなに食べきれないのではと思っていた量のつみれや野菜が、みるみるうちになくなっていく。
胃にも負担なく食べきれた。

代謝効率のいい体をしているぼくは、食事の途中で頭から汗が噴出してきた。
水炊きの温かさと、柚子胡椒の辛味が、おそらく全身発汗を起こしているのだと思う。

鍋に入れた豆腐にも、柚子胡椒を少し塗って食べると、これがまた抜群にうまい。
最後は、うどんかちゃんぽんめん、ごはんのなかから選ぶが、もちろんぼくはごはんを選んで、おじやにして食べた。

博多のいろはの水炊き。
B級とは言えないが、B級をちょっと超える特B級の真骨頂であった。

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医師たちは疲れている

日本医師会は今年度2月に勤務医1万人を対象に調査を行った。
3879人の回答があり、そのうちの約6%が自殺や死について考えているという結果が出てきた。
自殺や死について、ちょっと考えたことがあるという程度ではなく、一週間に数回考えたことがあると答えた人が5.3%いた。
さらに、実際に自殺を計画したり、死のうしたというドクターは0.4%いたという。
今までのこのブログでも、日本の医療は土俵際にいると言い続けてきたが、小泉改革によって、病院の勤務医は非常につらい状況に追い込まれている。

1週間ほど前、NHKBSの「きょうの世界」に出演した。
内容は、主にイラクのバグダッドを中心に、ドクターが不足しているというテーマである。
イラク戦争がはじまってから、約5000人のドクターがイラク国外へ出てしまった。
200人のドクターが殺されたという。
虐殺を繰り返したポルポト政権は知識人である医師をまず血祭りに上げた。
中国の紅衛兵運動も、医師を槍玉にあげている。
医師という命を支える砦が崩れることで、復興にどれだけ多くの時間がかかるかわからない。

医師はつねに中立。
どんな体制になろうと、どんな政治状況になろうとも、国民の命を守るという姿勢が正しいと思う。

医療にムチを打ったり、あるいはご褒美をだしたり、そういう風見鶏のような政策ではなく、医療は国民を守る最も大事なものという認識で、正面から取り組んでほしい。
政権をとった民主党も、野党になった自民党も、医療の大切さを忘れないでほしいと思う。

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2009年9月14日 (月)

文庫『ちょい太』快調です

週刊東洋経済9月12日特大号に、文庫になった『ちょい太でだいじょうぶ』(集英社)が紹介されている。
文庫版になって、ますます好評のよう。Photo_2

老化の原因とされるフリーラジカルは、運動時、酸素を消費してエネルギーを出すときに産出される。
だから、原則的に過激な運動はよくない。
といって運動しないと、骨や筋肉が劣化し、ホルモン量が低下して老化は進んでしまう。
鎌田が無理のない運動(がんばらない運動法)をすすめるのは、そのためである。
適度な運動は、脳の若返りにもいい。

というわけで、運動は、まったくしないのもダメ、やりすぎるのもよくない。
この本には、がんばらない筋トレや鎌田流の早遅歩きなど、具体的な方法が書いてある。
多くの書店で、平積みになっているようなので、ぜひ、この秋から実践してみてはいかがか。

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新シリーズ・この人に会いたい(1)児玉清さん

日本中をとびまわっていろんな人に会ってきた。
たくさんの刺激をうけ、なるほどなと思うことが多い。
このブログでも、いろんな人の話を書いてきたが、新しいシリーズをはじめることにする。

第1回は、児玉清さん。
ご存知、理知的でハンサムな児玉さんは、俳優や司会者として活躍している。
この人が司会をつとめる「週刊ブックレビュー」(NHK BS2)という番組がなかなかいい。
児玉さん自身がなかなかの本の虫。
ヘビーな作家たちから、透明感の強い児玉清さんが、作品の裏側を上手に聞き出してくれる。
いつも感心してみている。

彼が『負けるのは美しく』(集英社文庫)という本を書いたときに、すぐに読んだ。
冒頭のエッセイ「母とパンツ」というタイトルが気に入ったからである。
サマセット・モームの『月と6ペンス』というタイトルに魅せられて、ぼくは初めての絵本に『雪とパイナップル』というタイトルをつけた。
「母とパンツ」というタイトルも、ぼくの趣味に合っていた。Photo
母とパンツがどうつながるのか、俄然興味がわいた。
なかなかおもしろい本だった。

本の最後に、36歳でスキルス胃がんでなくなった娘さんのことが書いてあった。
つらい話である。
娘さんを亡くして、児玉さん夫婦は深い悲しみに陥っていることがわかった。
雑誌の対談の話があったときに、児玉清さんと対談したいと話した。
夢がかなった。
そのとき、娘さんの話になった。
娘さんは生きているとき、お父さんやお母さんのことを気遣っていたのではないか、とぼくは自分の経験から想像して話した。
児玉さんは、目を赤くさせ、聞いてくれた。
まだ、まだ、娘さんを亡くした傷は深いように思えた。

児玉さんは、『負けるのは美しく』の中で、自分のことを「売れない役者」という。
飄々と言ってしまうところがいい。
「アクがない役者なんですよ」
なんて、自分でぬけぬけと言ってしまうのもおもしろい。
負けてもいいのだ。
負けても、美しいというのが、なんとも児玉清らしいと思った。

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2009年9月13日 (日)

小澤征爾はすごい

サイトウ・キネン・フェスティバル松本に行ってきた。
もちろん指揮は、小澤征爾である。

ラベルの「道化師の朝の歌」は、何十人ものバイオリンやビオラ、チェロによる豊かな深い弦の音色が、特徴的なアンダルシア風のリズムを奏で、体にしみわたってくるようである。

次は、ラベルの「シェエラザード」。
スーザン・グラハムのメゾ・ソプラノがやわらかく、美しく、そして力強い。
百数十人のオーケストラと一体となっている。
一人の声が、腕力で全てを支配しているのではなく、見事にオーケストラと一体となり溶け込んでいるような歌声である。

「シェエラザード」の「アジア」を歌った。
「ぼくは見てみたい ダマスカスを、
空に回教寺院が軽々と浮かんでいる」
10日ほど前までダマスカスにいたので、ぼく自身が音楽のなかに溶け込んでいくようだった。

最後の圧巻は、ブラームスの交響曲第2番。
ブラームスは、交響曲の第1番をつくるときには、20年ほどの歳月が必要だったという。
難産に苦しんだ第1番に比べると、第2番はオーストリアの避暑地でスッと生まれた。
聴いていてもよどみがなく、第1楽章から第4楽章へとまるで一人の人生を物語るように、ゆったりとした大きな波を描きながら、フィナーレへ向かっていく。

小澤征爾は、やはりすごい。
豊かで、深い音をつくり上げている。
繊細で、劇的である。
音楽のあふれる松本の夜に酔いしれた。

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2009年9月12日 (土)

鎌田實の一日一冊(37)  

『「地域生活の質」の基づく高齢者ケアの推進―フォーマルケアとインフォーマルケアの新たな関係をめざして』(冷水豊編著、有斐閣、5080円)

冷水(しみず)先生は、上智大学総合人間科学部社会福祉学科の教授をしているとき、2002~2006年にかけて、ぼくが住んでいる茅野市をフィールドワークにしていた。
御柱が立つ、諏訪大社の上社の前宮の近くに空家を借りて、若い研究者と定期的に大学から泊りがけでやってきた。
地域生活の質はどうやってまもられていくのか。Photo_2
それを、フォーマルケアとインフォーマルケアの新しい関係性から分析しようした。

当時、茅野市では「福祉21ちの」という住民主導の新しい健康と福祉のまちづくりが行われていた。
ぼくもその取り組みの副代表をしており、冷水先生の研究に少し関係することがあった。
フォーマルケアとは、介護保険や行政が行っている福祉のこと。
これに対して、「福祉21ちの」は、インフォーマルケアを大事にしようとした。
たとえば、この地方は冬になると雪が降るが、高齢者世帯では大雪が降ると、ごみを出せない。
そんなときに、近くの若者がゴミ出しをサポートする。
また、障害者がちょっと町に買い物に行ったり、外出したいときに、ついでにボランティアが車で同乗させてあげる。
そういうインフォーマルケアを町中に張り巡らそうと考えたのである。
それが、高齢者が暮らしやすい地域になるのではないかと考えた。

「地域生活の質」を上げるには、どうすべきか。
社会科学者の冷徹な分析が、この本のなかで行われている。
すぐれた視点の研究です。
ぜひ、興味のある方は読んでください。

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2009年9月11日 (金)

婚活の話

今月号の「潮」で、社会学者の山田昌弘・中央大学教授と対談をしている。
「パラサイトシングル」や「希望格差社会」「婚活」という言葉を生み出した社会学者である。

女性には2倍の法則があるという。10
女性が結婚したい相手は、自分の収入の2倍。
結婚して出産育児をする際、自分が仕事を辞めても、子育て前と同じような収入を確保するためである。
具体的に言うと、女性は、年収600万円の男性を探している。
しかし、現実は厳しい。
こういう男性は、東京ならば3.4%。
地方では3.4%もいない。
その希少価値の男性に群がるから、婚活動が必要になる。
ぼくは、ここでウエットな資本主義という話をして、意見がかなり一致した。
非正規雇用の人の8割が親と同居しているという。
親にパラサイトしているので、非正規雇用で低所得でも、貧困にならずにすんでいる。
つまり、この国の実際は、若者に対する社会保障制度の貧弱な部分を、家庭が担っているのだ。
今までの政治は、本来すべきことを家庭に預けてきた。
これを改善していかなければならない、というお話である。
よろしければ、ご覧ください。

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「頑張れなんて言えないよ」

終戦記念の日、NHKのラジオで若者と対話をした。
そのときのゲスト大野靖之くんというシンガーソングライターとご一緒した。
年間百数十校でのライブを行っているという。
子どもたちのファンが多い。
同時に、中学生のお母さんからも絶大なファンが増えだしているという。
イケメンでもある。

彼の曲に、「頑張れなんて言えないよ」という曲がある。
番組で、中学生や高校生たちの平和についての意見を聞いている合間に、大野くんがギターの弾き語りをしてくれた。
高音がとてもきれいな歌声だった。

よければ大野くんのCDを聞いてみてください。
ネット配信もしています。

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2009年9月10日 (木)

鎌田實の一日一冊(36)

『コラムばか一代 産経抄の35年』(石井英夫著、扶桑社、1680円)

著者は名コラムニスト。
日本記者クラブ賞や菊池寛賞を受賞している。Photo
35年間、産経抄のコラムを書き続けてきた。
一度、東京でおいしいお酒をご馳走になったことがある。
『がんばらない』や『あきらめない』の本を出すたびに、産経抄に取り上げてくださった。
しかも、名コラムニストから名文家だと、ぼくの文章を評価していただいた。
とてもうれしかった。
書き続けていけるかもしれないと、思うことができた。
名コラムニストのおかげである。

石井さんには、考え方が右と左でまったく違うのに、とてもかわいがっていただいている。
ぼくのなかに体育会系の血が流れているからかもしれない。
子どものころは野球部や剣道部で、しっかり汗を流すだけでなく、義理と人情もたたきこまれ、先輩後輩のたての付き合い方も徹底的に教えられている。
「ぼくの上半身は頭でっかちで、左からものを見ています。
でも、病院長(当時)をしながら、地域のしがらみのなかで生き、病院を守るために、
下半身はけっこう保守的に変わり始めています」
そんなことを、石井さんとお酒を飲みながら、冗談を交えて話したことがある。

この本のなかにも、石井さんは「がんばらないが、あきらめない」というタイトルで、鎌田實を分析している。
ぜひ、ご覧ください。

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盛況だったほろ酔い勉強会

今年度の第1回ほろ酔い勉強会が昨日、開かれた。
講師は、久々の内藤いづみ先生。熱烈ないづみファンが会場にあふれた。Siawaseno13tsubu_240
いつものように感動的な命を話をたっぷり聞かせてくれた後、鎌田と「生活習慣と命」とテーマで対談を行った。
ちょっとヘンテコなテーマだが、今年度のほろ酔い勉強会のテーマが「生活習慣」なので、ターミナルケアも生活習慣という切り口で、2人で話をした。

0909091image341 内藤いづみ先生は、最近『しあわせの13粒』(オフィスエム)という絵本を出したが、この内容が、まさに生活習慣と命であった。
1日1回大笑いすること。人の役に立つこと。人と比べないこと。
そんな13の生活習慣を行うことで、いきいき生きることができ、その結果として、いい死もやってくる。
ヒントに満ちたいい絵本なので、ぜひ読んでみてください。

写真のとおり、鎌田も内藤もちょい太です。
生活習慣病一歩手前。でも、2人はとてもエネルギッシュで元気です。

会場には遠藤ゆみさんが、すばらしいパッチワークを届けにきてくれた。
遠藤さんは、毎年いろいろなテーマでパッチワークをつくり、プレゼントしてくれる。0909092image342
今年のテーマは「おむすび」。
がんばらないレーベルから出ているジャズCD「おむすび」のジャケットをヒントにしてくれたようだ。

09090922image342 鎌田實が梅干になって、おむすびの中に入っている。
5人の子どもが、おむすびを食べようとしている。
真ん中の1人が、がぶりと食べかかり、ほかの子たちが「ちゃんといただきますを言わないと食べちゃいけないよ」と注意をしている。
なかなかの労作である。
おむすびの中の鎌田の顔はちょい太で、ほのぼのとしている。
遠藤さんが縫い付けてくれている鎌田の顔は大好き。

会場には、関西から青春18切符で電車を乗り継いできてくれた18歳の女の子もいた。
たくさんの人が楽しみながら、命について学んだひとときだった。0909093image343

次回は9月26日、諏訪中央病院病院祭とタイアップし、歯科口腔外科部長の上原忍先生による「歯と歯ぐきの病気と生活習慣」、在宅診療部長の高木宏明先生による「健康のための生活習慣 ワンポイントアドバイス」というテーマでお話しいただく。

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2009年9月 9日 (水)

病院の存亡 

京都舞鶴市民病院は、かつて充実した臨床研修によって医学生たちからあこがれられ、全国から若い医師が集まることで有名であった。
アメリカからベテランの臨床教授を召還して、教育だけに担当させた。
諏訪中央病院にも、この教育を受けた医師がいるが、じつによくできる。
ここで教育を受けた医師は、全国の病院で活躍しているが、臨床能力がとても高い。
非常に優秀なので、諏訪中央病院に一週間、研修医の教育のために来ていただいたこともあった。
臨床能力が高いだけでなく、優れた教育を受けているので、優れた教育を展開できるのである。

しかし、残念なことに、当時の市長は教育に興味を示さなかった。0908034
お金がかかるという理由で、当時、教育を中心に担っていた副院長と意見が合わず、副院長は退職。
内科医は14人のうち13人が病院を撤退した。
その結果、毎年、赤字幅は何倍にも膨れあがり、市は70億円を補填する状況に追い込まれてしまった。
わずか数千万円の赤字を減らすために、充実した教育をやめさせようとしたことが、病院のすべての機能を壊してしまったのである。

教育は大事である。
もし今も、京都舞鶴市民病院の教育があり、日本中からたくさん研修医が集まっていたならば、京都舞鶴市民病院は医師が集まる病院として経営的な危機も回避できたのではないだろうか。
今、多くの病院が、医師が集まらないことにより、経営的な危機を抱えている。
千葉県の銚子市立病院は、研修医制度の改革によって大学側が医師を送る力がなくなり、
医師がいなくなると同時に赤字は巨大化し、2006、07の2年間で、総額31億円という補填を必要とするようになってしまった。
そのために、病院を一時閉院した。
このとき、閉院ではなく、民間への売り渡しなどを行い公設民営にするなど、積極的な策をとっていれば、職員を離散させないですんだ可能性は高い。
一度、職員が離散してしまうと、なかなか元には戻らない。
医師不足のみならず、看護師不足が激しい現状では、銚子市立病院の再開はきびしいものだと思う。

病院の経営はたいへん難しい。
ぼくも16年間ほど経営にかかわったが、つねに綱渡りであった。
いい医療をやりながら、大幅な黒字はなくても、何とかトントンになるように経営をしてきたが、薄氷を踏む思いだった。
ほんのわずかな流れを読み間違えると、大幅な赤字が出てしまう。
現代は、病院にとって、さらにつらい時代である。
それなりの努力をしていれば、トントンの経営が達成できるような医療政策をとらないかぎり、多くの医師たちはつぶれてしまう。
現在の状況は、よほどいい場所で、よほど優れたリーダーがいて、大学病院からの医師の派遣も順調という、奇跡的な条件が重ならないかぎり、病院の経営は難しい。
このうちどれか一つでも欠ければ、経営を成り立たすのは至難の業ではないか。
新しい政権には、新しい医療政策で、この状況を変えてほしいと思う。

写真は、諏訪中央病院

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2009年9月 8日 (火)

信州の秋の味覚じごぼう

じごぼうは、唐松林のなかにできるキノコ。
ちょっと形は不気味だが、大変珍味でおいしい。
090906image340_2少しゆがいて、大根おろしで食べるのもおいしいが、
いちばんおいしいのは、みそ汁である。
じごぼうを入れたナスのみそ汁は、とにかく旨みがでる。
じごぼうのぬるぬるした独特の触感も抜群。

この地域の人、とりわけお年寄りは、この季節になるとじごぼうが食べたくなるという人が多い。
自分の命を限りを自覚したがんの末期の人などが、「もう一度、じごぼうが食べたいなあ」と感慨をもって話す土地の味なのである。

今年の初モノである。
例年より少し早いのは、1週間ほど前に降った雨のせいかもしれない。
この日の昼間は、じごぼうの卵とじのうどんだった。
夕食は、じごぼうの大根おろしあえを食べた。
よく食べた日の翌日の“やせる日”にはぴったりのごちそうである。

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新型インフルエンザに負けない⑱

~~ワクチンはタイミングが大事~~

中国の製薬会社が新型の豚インフルエンザワクチンを製造し、承認されたという。
中国に負けているのである。

今の厚生労働大臣は、いかにも先頭を走って準備を万全にしてきたような顔をしているが、全部後手にまわっている。
そのことは、春に新型インフルエンザが発生したときから、マスクではなくワクチンだと言ってきたにもかかわらず、輸入の手筈も、ここへ来てバタバタとしている。
情けない。
国民の命を守るという気概がないのではないかと思う。0908264image320
インフルエンザワクチンをするかどうかは、国民一人ひとりが自己決定すればいいのであるが、国は国民の命を守るために、5000万人分のワクチンを用意すべきであった。

オバマ大統領も9月1日、「安全で効果的な新型インフルエンザのワクチンの開発を着実にすすめており、間もなく接種が始まる。強制ではまったくないが、強く推奨する」と演説をしている。
こういうことをきちんとやってれば、選挙の結果も変わったのではないか。
万全の体制を整え、たとえば9月末から医師や看護師にワクチン接種をはじめるというようなことを、8月末の時点で発表できていれば、国民は今の政府はしっかりしていると評価し、選挙の空気も変えられたのではないかと思う。
結局、何もできていなかったことが、証明されてきた。

ワクチンに副作用があるかもしれないから用意しないのではなく、用意しておいて、どの程度の副作用があり、どの程度の効果があるのか、透明性を高め、国民一人ひとりがワクチンを受けるかどうかを自分なりのプラスマイナスで判断すればいいのである。
ぼくはもちろん、ワクチンを受けるし、家族にもすすめる。

この調子でいけば、おそらく一般の人たちがワクチンを受けられるのは12月ごろになる。
これは遅すぎる。テイタラクである。
厚生労働省が発表しているように、新型インフルエンザは10月くらいからピークを迎える。
ワクチンは、ピークの後に打っても意味はないのである。
冗談であるが、もし、ぼくが厚生労働大臣だったら、マスク業者の尻をたたくのではなく、去年から国家プロジェクトでワクチン製造体制を整えていたと思う。
これは感性の問題である。

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2009年9月 7日 (月)

9/9 ほろ酔い勉強会

今年度のほろ酔い勉強会がはじまる。
9月9日は、在宅ホスピスケアで有名な山梨県の内藤いづみ先生「命を大事にする医療―在宅ホスピスケアの意味と意義」と題して講演してくれる。
後半は、内藤先生と鎌田が対談をする。

今年度のほろ酔い勉強会は、「生活習慣と病気」というテーマで、糖尿病や高脂血症など、多彩なメニューで展開する。
その第1弾の今回は、「生活習慣と命」というちょっとへんてこなテーマで、内藤先生と鎌田が対談する。
毎日の生活のなかで命について考えておくことで、大切な人ががんになったときや脳卒中で倒れたとき、あるいは自分自身がそういう病気になったとき、どんなふうに病気と距離を保ちながら、最期まで自分らしく生きぬくことができるかヒントになる。

諏訪中央病院の研修センターで、9日午後2時から。
参加は無料。
ぜひ、お越しください。

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杉並区で講演

先日、杉並公会堂で、杉並区の自殺予防の講演をした。090905image339

杉並区は、ぼくが育ったところ。
母校の和田小学校の校長が訪ねてきてれた。
知っている人とも再会し、ちょっとなつかしい気持ちに包まれた。

ふるさとはありがたい。

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鎌田實の一日一冊(35)

『取材ノートから』(小林照幸著、河出書房新社、1785円)

Photo 小林氏とは、あるテレビ局のニュース番組のコメンテーターとして、何度かご一緒した。
中年にさしかかっいる年齢なのであるが、ぼくは「小林青年」と呼んでいた。
若々しく、ハンサムな好青年なのである。
1999年に大宅壮一ノンフィクション賞を、史上最年少(当時)で受賞している。
第1回開高健賞奨励賞を受賞しているので、若くして才能を認められた書き手である。

この男の書いたもので最も好きなのは、『神を描いた男・田中一村』(中公文庫)。
力作である。
田中一村という孤高で、異端の画家は、奄美大島で絵を描き続けながら、世に一切認められずに亡くなっていく。
後に世界で認められていくきっかけとなったのは、田中一村の人柄にふれた友人たちが、公民館で開いた展覧会だったという。
ドラマチックな話である。

ぼくは、田中一村の絵をみたくて、奄美大島まで行ったことがある。
彼が住んでいた借家も訪ねた。
一村は、芸大で絵を学び、ストイックな生き方をしながら、奄美大島に流れていった。
そして、大島紬の職人として生活費をためると、何日も家にこもって絵をかいたという。
鬼気迫る生活である。

一村が暮らした借家は、奄美の言葉で「トネヤ(神屋)」という、神さまの山のまん前にあった。
シャーマンが祭祀を行う場に近いところに住み、それを肌で感じていたのではないか。
それが、一村の作品に、神々しい深みのあると理由ではないかと、小林青年は分析している。
たしかに、一村の作品「クワズイモとソテツ」や「アダンの木」などには、南の島の自然や、そのなかに隠れている神の姿が見えてくるような気がする。Photo_2

ところで、一村が、芸大で東山魁夷氏と同級生だったというのはおもしろい。
東山魁夷さんとは以前、日本チェルノブイリ連帯基金が、信濃毎日新聞賞を受賞したときに、ご一緒したことがある。
ぼくらの活動に賛同してくれ、バザー用に、東山先生のシルクスクリーンの複製画と手紙を寄付いただいた。
それを東山先生のファンに買っていただき、資金をチェルノブイリの白血病の子どもたちの薬代に充てたのを覚えている。
田中一村は、その東山先生に、並び称されるような才能を早くから指摘されていた。

小林青年の本は、ほとんど全部読んできた。
いろんな分野に挑んできた多作の作家の取材ノートである。

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2009年9月 6日 (日)

失業率は過去最悪

失業率5.7%は、過去最悪である。
359万人が完全失業している。
昨年よりも、1年間で103万人の失業者が増えている。

消費者物価は2.2%下落して、完全にデフレ傾向である。
みんなでお金を使うような空気をつくっていかないといけない。

小泉さんや竹中さんがやろうとしたことの結果が出ている。
それとは反対のことをしながら、雇用問題を解決し、この国の経済を立て直さないといけない。
いまこそ、ウエットな資本主義が求められている。

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唐十郎がやって来た

唐十郎が、ぶらりと岩次郎小屋にお茶を飲みにきた。

Dsc_0001日本の演劇界に、新しい波を起こした若い劇作家たちが輩出された時代があった。
つかこうへいや夢の遊眠社の野田秀樹など、たくさんの劇作家が登場したが、多くの人がいまは休眠状態。
唐十郎は、今も自分の劇団をもち、毎年定期的に新作のシナリオをつくり、演出をし、俳優をし、そして芥川賞作家として小説を書きつづけている。
72歳。
バイタリティーにあふれている。

ぼくは、20歳のときから唐十郎の芝居が好きで、ずっとウォッチングをしてきた。
憧れの人とのお茶の時間は、ちょっとうれしい時間だった。

~~紅テントがやってくる~~

10月の土日は、唐十郎作の「盲導犬」が唐組の紅テントで上演される。
ぼくは10月11日の日曜、新宿・花園神社の芝居を見に行く予定。
この日の夜は盛岡へ行く予定だったが、なんとしても唐十郎の芝居は春と秋の2回観たいという熱い思いで、予定を組みなおした。
ぜひ、一度、唐組の芝居をみてください。
とにかくおもしろい。

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2009年9月 5日 (土)

発見!特B級グルメ(74)

いつもは、料理を紹介するが、今回は特別にお店そのものを紹介したい。
その店は、神戸の元町にある。
お好み焼きと広東料理という妙な取り合わせの店である。P8070383
「千代」という。
阪神淡路大震災の際、この一帯は直撃を受け、多くの家が倒壊した。

4年ほど前、NHKラジオ「鎌田實いのちの対話」で、小室等さんと安奈淳さんと神戸から生放送したことがあった。
そのとき、この不思議な店「千代」をはじめてた訪ねた。
原っぱのようなところに、ぽつんと一軒建っている。
赤提灯が出ているが、ふつうの家のよう。
入り口を開けると、鉄板の厨房が見える。オープンキッチンといえばかっこいいが、すべてがまる見えである。
店がいい感じで汚いのもいい。

P8070387 このお好み焼き屋の広東料理がびっくりするほどおいしい。水餃子なんてよだれが出るほどうまい。
それにしても、なぜ、お好み焼き屋で広東料理なのか。

ここのオーナーは広東省の出身。0908073
子どもがまだ小さかったころ、子どもの誕生日に、お店で広東料理をつくってあげたという。
お好み焼きを食べにきたお客さんが、それを見て、うまそうだなと言うので、おすそわけをしたら喜ばれた。
そこから広東料理に予約が入るようになり、広東料理も出すお好み焼き屋になってしまった。

この店のファンは多い。
しょっちゅう雑誌やテレビで取り上げられている。
ぼくがこの夏に訪ねたときも、数日前にチマキが取り上げられたために、電話が鳴りっぱなしであった。

この日食べたのは、上海ガニとフカヒレのスープ。
オコゼの料理。「新鮮なオコゼが手に入ったから」というオヤジさんのオススメで、オコゼとネギをあわせていた。ぼくは、オコゼの中華料理0908074 なんてはじめて食べた。
あわびとへちまの料理には、きのこも入っていて、実においしい。
このへちまは、日本にはない中国のへちまだという。
そして、最後はお好み焼きでしめる。なんともB級グルメ好きにはこたえられないラインナップだ。

お好み焼きだけを食べに行くこともできるが、0908075
中華料理を1~2品ほど食べ、少しだけ年代物の紹興酒を飲んで、しめにお好み焼きというのがおすすめ。
でも、焼きソバもおいしい。
おいしいものだらけで目移りするが、やっぱり、お好み焼きははずせない。

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2009年9月 4日 (金)

新型インフルエンザに負けない⑰

~~政府は全体像をみて対策を~~

新型インフルエンザ対策として、自公政権は、10年度予算に207億円の予算をとりつけたという。
ぼくは春先から、1300億円の予算があれば国民を不安に陥れないですむと述べてくたが、これと比べると、なんとも迫力がない予算づけである。

麻生内閣の厚生労働大臣は、マスコミの前で大はしゃぎしてみせたが、実は何も行っていない。
新型インフルエンザ対策は、全体像をみなければならないのに、マスクという科学的根拠のない枝葉に振り回されてしまった。

新型インフルエンザ対策として、重要な柱は2つある。
一つは、ワクチンの製造体制を整備することと。
ウイルスが同定できたら、半年以内に、十分な量のワクチンを製造できる体制を整えるべきである。
これは何度も繰り返し主張してきた。

もう一つは、国産の抗インフルエンザ薬の開発を支援することであり、これもやはり何度も述べてきた。
すでに、インフルエンザ治療薬のタミフルに効かない症例も報告されている。
タミフルに今後何年も頼るというわけにはいかないのである。
国内でも、いくつかの新薬の開発がすすめられている。
政府はこれらの開発を支援し、同時に速やかに安全性を確認できる治験制度をつくるべきである。

まず、この2つの柱をしっかりと立てるために、政府はお金を使っても、国民は納得するのではないか。
国民の命と安心を守ることになるからである。
それはまた、国民の心を萎縮させず、普通の生活を続けていくために重要なことである。
この春、みんなが新型インフルエンザを恐れ、外出を自粛したことで、京都の観光産業が大打撃を受けたが、
そういう事態は避けることができるかもしれない。
今、学級閉鎖などで教育現場にも影響が出始めているが、教育もまひさせてはいけない。
さらには、日本がワクチンや抗インフルエンザ薬を世界に供給できる力をもつことは、新たな国際支援にもなるし、経済の活性化にもなる。

この二つの柱にはお金がかかるが、それは決して捨て金にならない。
好回転を生み出していくための大事な投資であると思う。
新しい政府は、ぜひとも、全体をみた舵取りをしてもらいたいものだ。

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拝啓、竹中さんへ 

竹中平蔵さんへ
あなたは、人材派遣大手のパソナグループの取締役会長に就任したそうですね。
あなたのイカサマ改革のおかげで、年収200万以下のワーキングプアが1700万人を超すような時代になりました。
格差は広がり、資本主義社会にとって大切な分厚い中流を壊してしまいました。
そんな時代、ぬれてに粟で、急成長していった派遣大手のパナソグループ。
パソナは平蔵改革により、2倍の増収になり、2008年には2369億円の収入を得ています。
そのパソナのトップに、あなたが就任するというのは、なんとも出来すぎているような気がします。

郵政民営化をきっかけにして、天下りを減らしていくことが必要だったはずなのに、それをいっさいやらず、
そればかりか自分自身が“天下って”しまうのは、なんともご都合主義ではないでしょうか。

平蔵さん、もうちょっとかっこよく生きたほうがいいんじゃないでしょうか。
ダーティーすぎます。
自分をちゃんと律しないと!

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2009年9月 3日 (木)

餃子のまち宇都宮

今日も、各地を講演しているカマタは、いま宇都宮にいます。090903image336

宇都宮みんみんとか、正嗣とか、有名なおいしい餃子のお店がひしめくB級グルメのまち。

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鎌田實の一日一冊(34)

『がんと闘った科学者の記録』(戸塚洋二著、立花隆編集、文藝春秋、1750円)

ニュートリノ観測でノーベル賞受賞を確実視されていた物理学者が、ブログに公表していたものをまとめた本。
著者は、2000年11月、最初の大腸がんの手術を行ったが、04年、左肺に転移が発見される。
05年には右肺に転移。このとき、手術は不可能となった。Photo
08年には肝臓、骨、脳に転移がみつかった。
そんな過酷な状況のなかで、子どもたちや知人への近況報告のため、そして、つれづれなるままに書き残しておきたくためにブログを始めたという。

ある知人から、「鎌田さんに戸塚さんが手紙を書きたいと言っているがいいかな」と言われた。
もちろん、光栄なことだと思った。
しかし、戸塚さんは突然、命を終え、結局、手紙もメールも届かなかった。
この本のなかに一カ所だけ、「鎌田實先生のご本『がんばらない』。“がんばらない”は重要なキーワードですね」という文章が出てくる。

この本を読むと、どんな状況に追い込まれても、科学者としてできるだけのことをしようと模索しているのがよくわかる。
「なげだしていない」スタイルが十分に伝わってくる。

戸塚さんは、肝臓に転移しても、脳に転移してもひるむことはなかった。
しかし、スピリチュアルな痛みを感じていたのだと思う。
痛みには、肉体的な痛みと精神的な痛み、社会的な痛み、スピリチュアルな痛みがあるといわれるが、日本人はこの最後の
スピリチュアルな痛みとは何かがわかりにくいとされている。

「稀にですが、ふとんの中に入って眠りにつく前、突如、自分の命が消滅した後でも、世界は何事もなく進んでいく。そんなことに気がつき、飄然とすることがあります」
そんなことが書いてある。
日本を代表する物理学者戸塚洋二は、自分のなかにできたがんという細胞とつきあいながら、自分が消滅した後の世界を絶対に垣間見ることはできないという現実に気づき、虚空に吸い込まれるようなスピリチュアルな痛みを感じていたのではないか。

命に対して、実に大切なことを訴える本である。
戸塚洋二が残した命の哲学を、ぜひ、たくさんの人に読んでもらいたいと思う。

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2009年9月 2日 (水)

初秋の夜空は美しかった

昨夜、諏訪中央病院の屋上で、星を見る会が行われた。
国立天文台の専門家が来てくれ、車椅子やベッドのままでも天体が観測ができるよう、光ファイバーによる装置と大きな天体望遠鏡を設置してくれた。

患者さんも車椅子にのって集まり、ご家族やご近所の方も参加してくれ、大喜び。
あいにく雲が多かったが、雲の間にのぞく美しい月や星を楽しんだ。

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安奈淳さんとの対談

P7250230 安奈淳さんには、チェルノブイリ連帯基金に多額の寄付をいただいたり、いつもお世話になっている。
7月には、諏訪中央病院看護専門学校の文化祭で、感動的な講演をしていただいた。

「PHPほんとうの時代」10月特別増刊号で、安奈淳さんと鎌田の「幸福論」がのっている。Php
病気に苦しんだ安奈淳さんが、人生の目的は健康じゃないという語る内容はたいへん説得力がある。
今でも、宝塚時代と変わらぬ体型を保っている秘訣もわかる。
ぜひ、ご覧ください。

写真は、岩次郎小屋でのツーショット

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本日、テレビ生出演

急きょ、テレビ出演が決まった。
2日午後11時15分~、NHK BS1「きょうの世界」で、現在のイラクの医療状況について語ってきます。
ぜひ、ご覧ください。

本日は、午後2時30分から、「大竹まことゴールデンラジオ!」(文化放送)にも出演するので、お聞きのがしなく。

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2009年9月 1日 (火)

新型インフルエンザに負けない⑯

~~ホンモノの「新型」とは~~

「新型インフルエンザ」というのは、固有名詞ではない。
人類とウイルスの闘いのなかで、いつでも新しく出てくるウイルスが「新型」である。
今回の新型インフルエンザウイルスは、豚インフルエンザウイルスで、弱毒型のH1N1型である。
海外では、このウイルスを、いわゆる季節性インフルエンザの亜型と考え、「新型」とはみなしていないという。
海外で「新型」といえば、H5N1型の鳥インフルエンザのことを指す。
そういう意味では、このシリーズのタイトルも反省しないといけない。

毎年の季節性インフルエンザを怖いとは思っている人は、それほど多くないだろう。
しかし、季節性インフルエンザは、流行の年によって差があるが、日本でも毎年1万人前後の人の命を奪っているといわれている。
日本人の三大死因は、がん、心臓病、脳卒中であるが、第4位の肺炎のなかには、インフルエンザから肺炎を起こした人も含まれる。
高齢者や糖尿病患者、透析患者にとっては、インフルエンザは脅威となりやすいのも事実である。

0909012image331 では、今回さわぎになっている豚インフルエンザはどうだろうか。
今期の南半球の流行の状況からみると、やはり恐れすぎる必要はない、という結論に達する。
オーストラリアでは、豚インフルエンザにはっきりと感染したとされる患者数は、3万3844人。そのうち死者は132人。
ブラジルでは死者が488人。アルゼンチンでは439人出た。
豚インフルエンザで亡くなった人の数をみると、たいへんなことではあるが、通年の季節性インフルエンザと比べると圧倒的に少ない。
怖さでいったら、通年の季節性インフルエンザのほうが怖いということになる。
繰り返し言うが、豚インフルエンザは弱毒性なのだ。

そうはいっても、感染力は高い。
それは、抗体をもつ人がいないという「新型」ならでは怖さである。
抗体をもつ人が少ないと、感染はあっという間に広がる。
日本でも感染が広がっている。
別の言い方をすれば、抗体をもつ人が増えているということである。
実際に感染したり、ワクチンを打つことによって、抗体をもつ人が増えてくれば、弱毒性で、しかも今のところ、通年の季節性インフルエンザより死亡率が低い豚インフルエンザに対して、あまり大騒ぎする必要はない。
通年の季節性インフルエンザと同じように、脅威となる高齢者や糖尿病患者、透析患者らは十分注意をしないといけないが、それ以上騒ぎすぎることはないのである。
もちろん、高齢者や糖尿病患者、透析患者など、季節性インフルエンザや豚インフルエンザに弱い人たちに対して、さらに丁寧な対応の指針を示していくことは大切である。
それが、今後、数年のうちに脅威となるホンモノの「新型」である鳥インフルエンザ対策の予行演習になると思う。

政府もマスコミも、今後、増加していくだろう感染者の数や死亡者数を伝える際には、冷静さが求められる。
たとえば、通年の季節性インフルエンザのときの感染者数や死亡者数と比較する形で、新型インフルエンザも今までのインフルエンザとそれほど変わらないのだということを示し、国民にきちんと理解してもらうようにするのも方法だと思う。
増加するデータを、センセーショナルに伝えるのだけは避けたい。

もうすぐ、新政権が誕生するが、前厚労大臣のように、スタンドプレーのはしゃいだ対応をしないことを強く望む。

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9/2 ラジオ出演

明日2日午後2時30分から、「大竹まことゴールデンラジオ!」(文化放送)に出演する。
先日、医療支援のために訪ねたイラクの話や、感染者が急増している新型インフルエンザの話、政権交代が実現した選挙の話などを25分間、大竹まことさんと展開する。
ぜひ、お聞きください。

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