鎌田實の一日一冊(41)
『しあわせ食堂』(武内ヒロクニ+毎日新聞夕刊編集部、光人社、1890円)
著名人50人の「食」にまつわる思い出が、武内ヒロクニの絵とともに紹介されている。
鎌田實は、「もやしいため」。
環七のあの定食屋さんの、たしか50円の一番安いもやしいためを、父と二人でよく食べた。
武内ヒロクニの絵がいい。
暴力的だ。なんとんなく悲しい。なんとなくうきうきして楽しくなる。
なんだかわからないハチャメチャな絵が多い。
特に、鎌田のもやしいためは、激しい。
なんだかわからないが、もやしいためが踊っている。
武内ヒロクニさんが拒食症になって、ごはんが食べられないときの絵だという。
田辺聖子さんは「お好み焼き」、妹尾河童さんは「カステラ」、やなせたかしさんはやっぱり「あんぱん」・・・。
ぼくの父は、怖い人だった。
だが、夜中に仕事から帰ってきて、2人で行った定食屋さん。
「ミノル、何、食いたい」
思い出すと、定食屋での父はいつもあたたかい顔、あたたかい声だった。
1皿のもやしいためを、二人で食べた。
最高の晩餐だったと思う。
『しあわせ食堂』けっこういい本です。
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