『脳にいい勉強法』(アスコム)や、『脳を味方につける生き方』(三笠書房)など、次々に新しい本を出している売れっ子の脳機能学者。
コンピュータの専門家でもあり、実業家としても知られている。
全日本気功師会の名誉会長なども務める。
オウム真理教信者の脱洗脳を手がけたことで有名である。
そのほか、警視庁長官狙撃事件の実行犯とされる元巡査長の記憶を引き出した、などで知られる。
彼はこんなことを言っている。
「正しい勉強法の最大のコツは、がんばらないことです。がんばることで脳が拒否反応を起こし、IQがおもっいっきり下がります」
10年前から「がんばらない」といい続けている、がんばらない教の本家本元としては一度お会いしたかった。
『しがみつかない生き方』がベストセラーになっている香山リカさんにお会いしたとき、香山さんから「ちょっとぱくりしました」と言われた。
みんなに、「がんばらない」を意識されている。
脳機能学者が「がんばらないことのほうが頭かよくなるという」のはおもしろいなと思った。
脳はがんばる人より、楽しむ人に味方する、というフレーズをこの人も言っている。
おもしろいのは、人が治るときには、内科が使う薬や外科が行う手術の効果以上に、「治るのだ」という自信が重要なのだという。
だから、同じ手術の腕前の医師でも、「私が治します」とか、「私はナンバーワンの技術をもっている」と自信たっぷりの先生のほうが、治る率が高いという。
なるほど、その通りかなと思った。
いまテレビで「神の手」といわれて、引っ張りだこの脳外科医、福島孝徳先生は、以前、よく諏訪中央病院に手術にきてくれた。
そのとき、脳の手術をしている手術室のなかで、「ぼくは世界一だから」とい言いながら手術していたのを覚えている。
苫米地理論によれば、手術の前や後に直接、医師からそう言われた患者は、手術で治る以上に、この言葉で治っていくのではないかという。
その言葉が迫力やリアリティーをもつためには、やはり医療者として技術がなくてはならないが、言葉に出して言えるというのは、もっと大きいという。
手術の説明をするときにも、たいていは若いドクターが丁寧に合併症などのリスクや、助からない率などを説明して、手術の承諾書に署名してもらう。
しかし、そこに立ちあわなかった部長や執刀医が数時間後に病室を訪ね、「私が治しますよ」とか「全力でやりますから、治ります」と言い切ってあげると、手術後の経過がいいという。
がんの再発率までちがってくるという。
これは確かに見習っていい手法のように思う。
正直に1%の確率で合併症があるとき、99%は大丈夫ですといっても、患者は、自分はその1%なのではないかと心配するものである。
心配をしたまま、今の医療は放置していることが多い。
そのまま手術をすれば、手術の間中、不安のなかにいる患者は免疫力が下がり、治癒率が下がる。
もちろん、厳しい話もきちんと一度はしておいたほうがいい。
しかし、患者をおびえたままにさせることは、全体的にみればマイナスになる。
ぼくはいま朝日新聞社から出す予定の「言葉で治療する」という本を書いている。
医療にとって言葉がどれだけ大事かということは感じてきたことなので、苫米地さんがいうことは実によく納得できた。
気も合った。
文部科学省か厚生労働省から研究費がもらえれば、苫米地理論を諏訪中央病院で研究し、告知の仕方で治療成績が変わることを証明してみたい。
2人でちょっと政府に働きかけてみようか、そんな話も飛び出しだ。