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2009年10月17日 (土)

ブドウの話

昨日に続き、仙台での国保地域医療学会の話をしよう。

市民公開講座を担当した。
聖路加国際病院の副院長で、小児科医の細谷亮太先生とあったかな医療について語った。
たくさんの市民たちが聞きにきてくれた。

ぼくは、最近の諏訪中央病院のアニマルテラピーや、緩和ケア病棟を支えてくれているボランティア、病院の庭をいつも美しく手入れをしてくれているグリーンボランティアたちの活動についてお話しながら、最後に『雪とパイナップル』の話をした。

細谷先生は、「鎌田先生がパイナップルなら、ぼくはブドウの話をします」といい、はじめた話がとてもすばらしかった。

白血病の子どもをもったお父さんが、ブドウの好きな自分の子のために、季節はずれのブドウを食べさせてやりたいと思った。
有名な銀座の果物屋さんの前を行ったり来たりした。
1房丸ごとは、高すぎて買えない。
何度も行ったり来たりしているうちに、店員さんから声をかけられた。
「子どもにブドウを食べさせてあげたいけれど、子どもの病状はよくなくて、1房は食べれそうもない」
それを聞いた店員さんは、
「わかりました、特別に量り売りをしましょう」
1房の何分の1かにはさみを入れて、小さな子ども用の房をつくってくれた。
なんともいい話だなと思った。

房から落ちそうなブドウの粒を3粒ほど差し上げるという手もあるように思うが、きちんとお金をやり取りしたことに意味があるように思う。
資本主義社会のなかでは、お金が回るということはとても大事なこと。
そして、そのときにあったかなお金の回り方をしたことが、すばらしい。
お父さんにとっては、小さな房でも、高いブドウであったと思うが、小さく分けてもらって買ったブドウの房には価値があると思うし、店員さんのビジネスマインドにも優れたものを感じた。
自分の商いを大切にしながら、病院のなかにいる白血病と闘う子どもに対して、見事な想像力があると思った。

国保地域医療学会の一日目が、あったかい空気のなかで終わり、懇親会が行われた。
懇親会場で、ぼくが仙台のずんだもちを食べていたら、ハンサムな青年から声がかかった。
「ぼくは、理学療法士と作業療法士をしています」という。0910022image379
そして、ぼくと一緒にグアムやハワイに旅行した大橋さんのリハビリをしていることがわかった。
偶然の出会いである。
なんともうれしくなってしまった。
「リハビリをしながら、いつも鎌田先生の話をしています」
大橋さんは、滋賀県に住む方で、鮒寿司を送ってくださったり、ぼくが忙しく飛び回っていると「お疲れにならないよう」とメールをくれるようになった。
そのメールを打ってくれていたのが、このハンサムな青年だったのだ。

こんなあたたかい好青年にリハビリを受けている大橋さんは、幸せだなと思った。
あたたかな医療が、そこらじゅうにあると感じた一日だった。

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