この人に会いたい(15)吉野槙一さん
日本医科大学名誉教授。もともとは整形外科医でリウマチ科の教授をしていた。
彼は、自然治癒力を増強するには、「脳内リセット」というのが大事だという。
脳のストレスを解放してあげる、と言い直してもいいかもしれない。
そのために、泣くことや笑うことの前後に血液検査をし、免疫系のナチュラルキラー細胞や、内分泌系、自律神経によって分泌される科学的物質などを測定。
泣くことや笑うことが、ストレスを軽減し、病気を治していくうえで大きな助けになるということを科学的に追究した。
おもしろいのは、笑うことだけでなくて、泣くことも、彼の研究によって免疫系や自律神経系にもいい作用を及ぼすことがわかった。
同時に、いい眠りをつくることも、精神状態と連動する病気の発病を抑える働きがあるという。
つまり、糖尿病やがん、高血圧、アレルギー疾患などの発病や病気の悪化をさせないようにするには、笑うこと、泣くこと、いい眠りをつくることが大事という。
糖尿病などは、糖尿病と診断されただけで気分が滅入る。
そのときに、どう明るく対応できるかが大事となる。
ぼくは『言葉で治療する』(朝日新聞社)のなかで、「行動変容」という言葉を使いながら、前向きに明るく、自分の病気をいかにセルフコントロールするかがガキだということを書いている。
食事制限すること自体が、気分をうつうつとさせ、その気分がさらに糖尿病を悪化させる。
この悪循環を断つためには、食事制限の動機付けなどが大事だし、ときどき崩れたときも自分を責めないことが大事である。
ストレスがあってもがんばっていると、交感神経が緊張状態になり、副腎髄質からアドレナリンが分泌される。
アドレナリンはナチュラルキラー細胞の膜にあるアドレナリンβ受容体と結合して、ナチュラルキラー細胞の活性を低下させるという。
一方、ストレスは副腎皮質にも働いて、コルチゾールを分泌する。
そのコルチゾールはマクロファージの機能を低下させる。
ストレスが免疫機能を低下させるのである。
笑うとβエンドルフィンが増える。痛みが少し軽減される。
副交感神経が刺激されると、痛みに関係するインターロイキン-6という物質が低下するために、ほっとしたり、リウマチやがんなどの痛みも軽くなるという。
楽しいことに夢中になることも大事だという。
精神的なものが影響するがんやリウマチ、糖尿病、胃の病気などの人たちは、できるだけ夢中になれるものをみつけるといい。
これらは、だれでも知っているようなことであるが、吉野先生はそれを科学的に証明したところがおもしろい。
吉野先生は大学教授を退官し、現在は臨床医としてクリニックを開業している。
彼は大学教授のころに、リウマチ患者の性生活の実態なども調べている。
リウマチの患者さんたちが、結婚生活を満足におくれていないことがわかった。
下肢の人工関節置換術を行うと、歩くことは100%改善しても、性行為の改善は50%程度にとどまる。
セクシュアルなテーマは日本の病院では語られにくいが、生きていくうえでは大事なテーマなので、医師と患者が信頼関係のなかで相談できるようになるといいと思った。
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