この人に会いたい(16)米長邦雄さん
日本将棋連盟会長。
『癌ノート~米長流 前立腺癌への最善手』(ワニブックス)という本を読んで、おもしろいなと思った。
66歳で前立腺がんになった。しかも広範囲の前立腺がん。
手術をすすめられたが、いろんな情報を集め、セカンドオピニオンを受けたりしながら、
放射線治療も選択の一つと考えた。
ブラキセラピー(小線源療法)の、埋め込み式の低線量率組織内照射は、がんが前立腺の両側にあるために弱すぎる。
がんの進行を止められないといわれた。
彼は、手術に傾きかけるが、高線量率組織内照射という放射線治療があることを知る。
最近の前立腺がんの手術は、神経温存療法も行われるようになり、尿モレや勃起不全などが起こりにくいといわれている。
それでも2、3割は、機能不全を起こす可能性がある。
そこで彼は、情報を集め、セカンドオピニオンを受け、自分にとっての最善手は何か、選択しようとする。
勝負師米長は、正しい情報と客観的な判断、そして、最後にそのドクターのもっている運気をみて決めたという。
運気というのは、おもしろい。
米長さんは、笑いながら言った。
「タイガーがいま、大騒ぎされているが、運気のない女性と付き合ってしまったことが問題なんだ」
「そうですか、じゃあ、あげまんの女性と付き合わないといけないですよね」
と、ぼくは切り替えした。
以前、ぼくは62歳の男性の奥さんから手紙をもらったことがある。
やさしかった夫が、このごろイライラしているという。
ぼくは、定年退職後、精神的な過渡期で、暗くなったりすることがある、長い目で支えてあげてください、と手紙で返事をした。
また、奥さんから手紙が来た。
孫にもやさしかった夫が、孫を怒鳴ったり、私を怒鳴ったりする。
実は、話しづらいのですが、と前置きし、夫はセックスができなくなった、と書かれていた。
その書きづらいことを書いてくれたことで、ようやくピンときた。
前立腺がんでホルモン療法をしているので、薬の影響もあると思った。
泌尿器科の先生と相談をして、すぐに改善することができた。
奥さんから、もとの夫に戻りました、やさしくて強い夫です、とニヤッとしてしまう手紙をもらった。
セクシュアルなテーマは、大事なことなのに、なかなか相談しづらい。
はじめの手紙のときに、勘のいい医師ならば、言いづらいことを言わせずにすんだかもしれない。
ぼくは、定年退職後の精神的なショックということで片付けようとしていたことを反省した。
がんの治療では、命を助けるために、尿モレや勃起障害などについてはあまり斟酌しない空気がちょっとある。
命が少しでも助かる方法を選ぶのか、セクシュアルなことも含めたQOLを選ぶのか、患者さんそれぞれの価値観によって選択するのが、その人にとっての最善の治療法となる。
稀代の勝負師が何通りもある指し手の中から、どうやって自己決定したかがよくわかった。
インタレスティングな時間であった。
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