鎌田劇場へようこそ!(28)「戦場でワルツを」
この映画は、ゴールデングロープ外国語映画賞、全米映画賞批評家協会賞最優秀作品賞、国際ドキュメンタリー協会賞長編ドキュメンタリー賞などを受賞した。
アカデミー賞の外国語映画賞部門にもノミネートされたが、「おくりびと」に競り負けた。
うわさでは、イスラエルの映画でなかったならば、「戦場でワルツを」が受賞したのではないかといわれている。
イスラエルは、2009年1月にガザ攻撃をし、1315人を虐殺した。
特に批判が大きいのは417人の子どもを殺していることである。
そのイスラエルの映画には、たとえ反戦映画だとしても、賞をあげることはできなかったのだと思う。
「おくりびと」の評判はいいが、ぼくはあまり評価をしていない。
死者をおくることを、納棺師という専門の人に任せてしまうのが好きではない。
おくりびとは、家族であったり、友人であったり、恋人であったり、その人と生きているときに関係の深かった人たちがおくりびとになるのがいいのではないかとぼくは思っている。
そんな内容のことを、来年2月発売の新刊(集英社)で書いた。
この新刊については、後日、お知らせするので、ご期待ください。
その「おくりびと」に負けた「戦場でワルツを」がすばらしい。
アニメーションである。
アリ・フォルマン監督自身は、若い頃、サブラ・シャティーラの虐殺があったレバノン戦争に従軍した。
しかし、そのときの記憶が抜け落ちている。
ベトナム戦争のとき、帰還兵の精神が冒されていく症例が注目され、PTSDという新しい疾患がみとめられた。
PTSDは戦争だけではなく、災害や事故など、大きなストレスを受けたあと、しばしばおこる。
阪神淡路大震災や中越沖大震災の後でも、PTSDに苦しむ人たちがいる。
無力感や思考力の低下、恐怖感、悪夢、うつ状態、パニック障害など多彩な精神症状や身体症状が出てくる。
そのなかに記憶の障害も含まれている。
監督は、イスラエル軍の歩兵だったときの戦友を訪ねてあるきながら、悪夢から逃げない。
徐々に自分の記憶を取り戻していく。
最後に、画面はアニメーションから、サブラ・シャティーラの虐殺を伝えるニュース映像に切り替わり、映画は終わる。
かつてイスラエルは、ナチスによるホロコーストを経験しているはずなのに、
自らの民族の悲しみを忘れ、痛めつけられたことの苦しさを忘れ去り、レバノンやパレスチナで残虐な行為を繰り返している。
この映画は、憎しみや恨みの連鎖から、暴力や戦争を起こしていることを自己批判している。
もちろん、批判も多い。
現実はもっとひどいことをしているはずなのに、きれいごとですませている。
だが、ぼくはイスラエルからこういう映画が出てきたことは、実は貴重なのだと思う。
人間とは何か、生とは何か、死とは何か、戦争とは何かを考えさせてくれる。
哲学的な考察が好きな人には、ぜひみてもらいたい映画だ。
ポエムが好きな人にもおすすめ。
人間の心に興味のある人にもおすすめ。
反戦や平和を考えている人にもおすすめである。
人間て、なんてバカな動物なんだろうと思っている人にもおすすめ。
11/28よりシネスイッチ銀座でロードショーしている。
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