“夢”の対談
パッチ・アダムスに会えるという話が舞い込んだ。
ウェストバージニア州で建設中の「夢の病院」を見ながら、パッチ・アダムスと新しい医療について語り合わないかという。
残念なことに、イラクでのカンファランスの予定が入っていた。
イラクに、ぼくが行かないわけにはいかない。
すでにイラクの5つの小児病院の小児がんや白血病の専門医から、参加するという多数の返事がきている。
信州大学からも2人、参加を予定し、すでに医師、看護師、事務員各1人は現地に入り、準備をはじめている。
映画『パッチ・アダムス』で知られている、本名ハンター・アダムスのことに関しては、本にも書いてきたので、ぼくにとっては夢のようなチャンスであったが、今回はお断りをした。
世の中ままならないことは多い。
またいつか、彼の夢の病院を見るチャンスはあるだろうと思っている。
9年前に出した『命があぶない 医療があぶない』(医歯薬出版)のなかで、パッチ・アダムスのことを書きながら、21世紀の命と医療のあり方について、自分なりに瀕死の医療を救う道を考えたことがあった。
パッチアダムスの言葉――。
「医療の現状が悲観的だと、医者たちの心も体も不健康になってしまう。アメリカの医者たちは自分の専門分野の研究対象として価値があるか、あるいは診療代を支払えるかどうかで病者を判別し、マニュアルどおりの事務的な治療をほどこす。
ある医療者はこう言っている。『最近、どの医者も機嫌が悪く、トゲトゲしている』。
私も45年間医者をやってきたが、医者の心がこれほどすさんでいたことはかつてない。昔と違って、医者という職業になった喜びが失われてしまったこともあって、医学部への志願者は過去5年間に25%も減ってしまった。また、この国のプライマリケアの医者のほとんどが、近頃ますます自分の仕事に嫌気がさしている、という最近の調査結果もほとんど同じ理由によるものではないだろうか」
その後、ぼくは『医療がやさしさをとりもどすとき』(医歯薬出版)という本を書いた。
しかし、医療はなかなかやさしさを取り戻せなかった。
2ヶ月前に『言葉で治療する』(朝日新聞社)という本を書いたのも、この9年間、瀕死の医療をどう救うか考え続けてきたからだ。
パッチ・アダムスもぼくと同じようなことを考えながら、ぼくよりも100倍くらい、アグレッシブに世界中を飛び回り、自分の理想の病院を作ろうとしている。
いつか彼と夢の病院、夢の医療について語りたいと思っている。
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