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2010年5月 5日 (水)

鎌田實の一日一冊(58)

『臨床とことば』(河合隼雄、鷲田清一、朝日文庫)

最近、出版された文庫のなかで2番目に売れていると評判だ。
臨床心理学の河合と、臨床哲学の鷲田ががっぷり四つに組んでいる。
鎌田が「臨床哲学と臨床心理学という二人の横綱の名勝負は、リズムよく、わかりやすく、ときに詩的で感動的である」と解説を書いている。
2人が横綱ならば、「学」のつかない臨床医のぼくは、前頭三枚目くらい。

実におもしろい本である。Photo
鷲田が、殺人事件を起こした人の年齢で多いのは、1位が49歳、2位が47歳、3位が48歳であるというデータを出すと、河合が第二の思春期である「思秋期」のことを述べる。
ぼくも48歳のとき、パニック障害を起こした。
見栄っ張りのぼくは、30歳代で院長になって、いい医療を展開しようと無理をした。
心臓がバクバクするパニック発作に見舞われた。
さいわい、殺人事件も起こさなかったし、自殺も試みなかったが、鷲田が言う「タダをこねる」最後の時期「ラスト・ダダ」の時期であったのかもしれない。

この本のなかには、自分が生きてきた道筋を解明したり、これから生きていくための手がかりがあふれている。
根源的な対話をしているのだが、難しい言葉を一切使わずに、実にわかりやすい。
言葉とは何か、人間とは何か、人と人との距離とは、聴くこととは。
本質的かつ深遠な問題についてやさしく問いかけあう。
河合隼雄という横綱が亡くなった今、もう再び見ることができない好勝負である。
ぜひ、お読みください。

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