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2010年5月25日 (火)

鎌田實の一日一冊(61)

『精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本』(大熊一夫著、岩波書店)

精神病院をなくして、全土に公的地域精神保健サービス網を敷いたイタリア。
精神病院を使わずとも、重い統合失調症の人たちを支えることができることを証明した。

イタリアの第一回フランコ・バザーリア賞受賞記念作品。
受賞したお金を利用しながら、著者はイタリアに長期在住して、イタリアの精神科治療の改革を克明にこの本につづった。

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1970年に朝日新聞に「ルポ・精神病棟」を連載。
アルコール依存症を装って、精神病院に入り込み、日本の閉鎖型の精神病院の内部を社会に明らかにした。
大ベストセラーになった。

1985年に『新ルポ・精神病棟』を書いた。
まだ、日本の精神医療の問題は解決されていない。

なぜ、閉鎖型の精神病院はいらないのか。
いくつかの理由を明確にしている。
人道主義的な理由。
精神病院は人間をモノとして扱うので、個性、自律、独立、個人の責任感などどの基本的人間性が損なわれる。
精神病院の利用を減らすことで、人間性の剥奪を防ぐことができる。
倫理的な理由。
精神病院は医原性疾患である施設症や社会的挫折症候群を引き起こす。
病院を利用しなければ、そうした症候群の発生率を最小限にすることができる。
経済的な理由。
入院医療には、精神保健関係費の70%が支出されている。
病院の利用を減らせば、地域社会のノーマリゼーション事業の推進にエンジンがかかる。
科学的な理由。
入院医療と、それに代わるさまざまな形態の医療を比較した研究では、20中19の報告が、入院に代わる治療携帯のほうが、効果的で経費が少なくてすむと明らかにしている。
しかも、入院治療は再び治療を受けようしないが、それ以外の治療を受けた人は治療を受けようとしている。

日本人は、統合失調症などの精神障害は入院治療しかないと思いこみ、地域精神保健サービスという精神医療のあり方を知らない。

『ルポ・精神病棟』から40年。
まだ、日本は精神病院を捨てていない。
しかし、大熊は、新しい芽が出ていることを書いている。
日本の精神科医療をどうすべきか、いろいろなヒントがある。

よい本です。
ぜひ、お読みください。

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