鎌田實の一日一冊(65)
『高橋竹山に聴く-津軽から世界へ』(佐藤貞樹著、津軽書房)
津軽三味線の名手、初代高橋竹山につきそった男、佐藤貞樹が竹山から聞いたことを書き残した。
佐藤は、晩年、付き人のように竹山に付き添った。
だが、「同行二人」の演奏の旅をともにしながら、竹山の才能を見出し、独創的な芸術を開花させる大きな貢献をしている。
佐藤は、ものすごい読書家である。
自分で得た知識や教養を、目の見えない竹山に読み聞かせ、彼の世界を広げていった。
ジャズやクラシックを繰り返し聞かせた。
竹山の、不思議な聞こえない音は、こうしてつむぎだされていく。
ぼくの父、岩次郎は高橋竹山が好きだった。
毎日、毎日、聞いていた。
亡くなるときも、病院のベッドの上で竹山を聴いていた。
このことを『それでもやっぱりがんばらない』(集英社)に書いてから、佐藤貞樹と親交が始まった。
津軽を案内してもらったこともある。
そして、食道がんがわかり、あっと言う間に亡くなっていった。
高橋竹山生誕100年の今年、その佐藤貞樹の遺言のような本が、津軽の小さな出版社から再販された。
しかも、竹山の未発表ライブ音源のCDがついていた。
ぼくも、渋谷のジァンジァンのライブで、竹山を聴いているが、そのころの音である。
このなかの即興曲「岩木」というのが、たまらなくすごい。
楽譜のないところから、じょんがら節を感性で変えながら、悠々たる世界を広げている。
トレモロやピチカートも見事だ。
今の津軽三味線ブームのロックような演奏とは全く違う。
あたたかで、やわらかな演奏である。
来月、鳥取で「第18回日本ホスピス・在宅ケア研究会全国大会in鳥取」が開かれる。
大会初日の7月10日、ぼくは、「我々はどこから来たのか、我々はどこへ行くのか-命の原点をみつめて-」と題して、講演することになった。
食道がんで亡くなった佐藤貞樹さんのことや高橋竹山のこと、父岩次郎のことを通して、命の原点について考えてみたいと思っている。
徳永進大会長と相談中であるが、会場で演奏してくれる、津軽三味線の演奏家を探してもらっている。
本のほうは、幻のCDが付いているため、2800円とちょっと高いが、ぜひ、高橋竹山の津軽三味線を聴いてもらいたいと思う。
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