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2010年7月 5日 (月)

鎌田實の一日一冊(70)

『経済分析の基礎』(サミュエルソン著、勁草書房)
『選択の自由-自立社会への挑戦』(M&R・フリードマン著、日経ビジネス人文庫)
『資本主義と自由』(ミルトン・フリードマン著、日経BPクラシックス)

『ウエットな資本主義』(日本経済新聞社)は、あたたかな資本主義を唱えたサミュエルソンと、過激な競争資本主義を唱えたシカゴ派のフリードマンを“結婚”させてしまえばいい、という発想で書いた。

両者の経済学の本を読んだ。

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ぼくの「ウエットな資本主義」は、どちかというとサミュエルソンに近い立ち居地のように思われがち。
しかし、フリードマンにシンパサイズしている部分が多い。

フリードマンはこんなことを言っている。
「ここ数十年間に、(アメリカ連邦)政府が乗り出した新事業の大半はことごとく目標達成に失敗している」
政府がやっていいことはあまりない、民間にやらせたほうがいいというのが、フリードマンの考え方である。
「たとえば、農業プログラムなど、貧しい農家を助け、農業につきものとされる変動性を解決するためのプログラムだったが、いまや国の恥というしかないものに成り下がっている。公的資金をたれ流し、資源の活用にゆがみを生じさせ、農家に対するしめつけは一段と厳しく、かつ微にいり細にわたるようになった。さらに、外交政策にまで重大な影響を及ぼし、しかも肝心の貧しい農家はいっこうに救われていない」

現在、行われかけている個別保障に関しても、同じような心配があるのではないかと、フリードマンを勉強すると感じる。

フリードマンがすっきりしていいところは「自由」にこだわったことである。
政府がやってはいけないこととして、徴兵制、国立公園、郵便、有料道路などを挙げている。
国立公園の運営なんかは民間に任せればいいだろうとたしかに思う。
郵政の問題も、郵政民営化が逆行していることに関していえば、これでいいのかなとハラハラする。
公務員の数も、郵政の逆戻しで増やそうとしている。

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このへんも、たしかに首をかしげる。
ラジオやテレビの規制をしないほうがいいと言っている。
これは、その通りだと思う。

農産物の買取保障価格制度なども、フリードマンは政府が行うべきではないと言っている。
産業規制、銀行規制も行うべきではないという。これは構造改革、新自由主義の発想である。
多くのところで納得できる。

職業の免許制度なども、フリードマンは反対している。
たしかに免許制度を通して、役人が新しい財団をつくり、免許を更新させ、そこで得た利益を天下り役人が自由にしている。

フリードマンで納得できないのは、社会保障制度の問題だけである。
フリードマンは最低賃金も決めないほうがいいと言っている。
社会保障制度はできるだけ自由に任せればいいと言っている。
これはどうも、納得ができない。

フリードマンとサミュエルソンを勉強していくと、ぼくの「ウエットな資本主義」は7割くらいがフリードマンに近いことがわかる。
だが、あとの3割、あたたかな血を通わす社会保障が必要という部分では、フリードマンのドライになりすぎるところとは相反している。

郵政改革や規制撤廃など、徹底した絶対自由主義や新自由主義ではなく、おだやかな自由主義というのが、「ウエットな資本主義」かなと思った。

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