あこがれの内田麟太郎さんに会った。
絵本作家で、詩人。
『さかさまライオン』(絵/長新太、童心社)は、本物と入れ替わった影のライオンが活躍する物語。
絵本にっぽん賞を受賞している。
絵本のベストセラー作家である。
1年間で出す作品は、何冊くらいか聞いてみた。
「本当は4冊。それ以上出したらダメと思っているが、断れなくてつくってしまう」という。
ぼくは、この夏、パレスチナとイスラエルを訪ねたが、両国の間で行われた「命のバトンタッチ」の話を絵本にしたいと思っている。
ある有名な絵本作家にお願いしたら、1年半待つことになるといわれた。
この話を内田さんにすると、「それは鎌田さんの名前と内容のおもしろさで、順番をずいぶん飛ばしているのではないか」と言われた。
15年も待っている作品が2つもあるという。
すでに絵描きさんに頼んでいるが、なかなか仕上がらない。
あきらめかけると、パーティーなどで絵描きさんに会い、もう少し待ってください、と言われる。
なんだ、まだ続いていたのかと思い、また待つのだという。
絵本づくりというのは、そういうものなのか、と思った。
だとしたら、ぼくの「1年半」は、やはり特別扱いなのかもしれない。
継母から愛されなかった内田さんは、少年時代、荒れていた。
『だれかがぼくを』(絵/黒井健、PHP)という最新刊の絵本は、5年かかったという。
「ころさないで」という言葉がいつも聞こえる少年の話。
19歳のとき、母親を殴り、台所に包丁を取りにいったとき、産みの親の「ころさないで」という声が聞こえたように気がした。
それを絵本にしている。
だが、あるとき初めて、継母から「愛さなくてごめんね」と言われる。
それから、お母さんの本をたくさんかきはじめる。
『おかあさんになるって どんなこと』(絵/中村悦子、PHP)という絵本は、若いお母さんにやさしく教えてくれる。
名前を呼ぶこと。
手をつないで歩くこと。
心配してあげること。
ときには一緒に泣いてあげること。
そして、ぎゅっと抱きしめてあげること。
内田さんは、東京へ出てからも苦労した。
それでも父親はふるさとに帰ってくるな、東京でずっと書き続けろと厳しかった。
つらい人生を歩いたぶんだけ、内田さんがつくる本はあたたかくてステキだ。
『きんぎょのきんぎょ』(理論社)という詩集も、内田麟太郎らしくて笑ってしまう。
『かあさんのこころ』(絵/味戸ケイコ、佼成出版社)という絵本は、美しい詩である。
悲しみを知っている絵本作家。
ナンセンスなことも言う、不思議なおじさん。
得体の知れない魅力的な詩人である。