たそがれのギリシャ
イスラエルを発って、ギリシャに着いた。
アテネのアクロポリスを見て歩いた。
2500年前にこんな雄大なものが建造されていたとは信じがたい。
日本では竪穴式住居で生活していた時期である。
ディオニュソス劇場はギリシャ最古の劇場で、円形劇場のはじまりといわれる。
アクロポリスの丘の下に広がる古代アゴラは、政治や宗教や哲学が語られた場所。
ソクラテスやプラトンらも、ここで熱い議論を交わしたのだろうか。
この場所から民主政治がはじまったと思うと、感慨深い。
重厚な歴史の一方で、現在のギリシャの経済は破綻しつつある。
2004年のオリンピックの準備のために財政が厳しくなったことを批判し、2004年にND(新民主主義党)政権が誕生した。
そのND政権は昨年、選挙に敗れ、それ以前に政権をとっていたPASOK(全ギリシャ社会主義運動)が再び政権を奪回。政権交代と同時に、前ND政権時代の巨額の財政赤字隠しや、年金や国民健康保険などのお金を政治家が着服し、プールのある豪邸を建てたなどの醜聞が発覚している。
現政権は、財政破綻のため、給与や年金の減額するなど厳しい政策を行おうとしているが、国民の政治に対する不信感は強まり、支持政党なしが7割にのぼるという。
ギリシャに20年住んでいる太田タマさんは、ギリシャの大学で日本語を教えている。
ギリシャ人には、バスや電車が来たとき、降りる人を待たず、われ先に乗り込もうとするようなところがあるという。
財政赤字の原因の一つとして、脱税の横行がある。
GDPの3割程度は闇経済になっているというから驚きだ。
政治家とのコネ社会ができあがり、政治家は私腹を肥やしている。
自分さえよければいいという思いが政治にも反映し、庶民の生活もギスギスしはじめているようだ。
さらに極右が台頭し、西洋思想のたそがれを思わせると太田さんは言う。
ソクラテスやプラトンの哲学は奴隷制度のある社会のうえに成り立った哲学である。
西洋思想だけが正しいと思わずに、もっと東洋のいい点を学んだほうがいいように思う、と話されたのも印象的だった。
西洋思想のたそがれだけではなく、EUという欧州全体の経済もたそがれつつある。
ユーロ安で、EU全体は非常に厳しい状況に追い込まれているが、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインの頭文字をとって、PIGSと揶揄される国々の経済状態は大問題になっている。
しかし、しかしである。
実際にピレウスの港町で夕飯を食べたが、実に明るい雰囲気だった。
とても美しい港で、食事も安くてうまかった。
経済が傾いているのにもかかわらず、なぜこんなに明るくて、元気なのだろうか。
太田タマさんは、どんなことがあっても、やっぱりギリシャはいいという。
人が生きるということは思想や経済だけでなく、もっと違った面もあることがわかる。
このへんがヨーロッパの強いところである。
これから、ピースボートに乗って、イタリア、フランス、スペインを訪ねていく。
思想も経済もたそがれに近づいているのに、そこで暮らしている人たちが元気なのはなぜか。
2週間の旅で、ぼくなりに探っていきたい。
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