鎌田實の一日一冊(79)
『自宅で大往生 「ええ人生やった」と、言うために』(中村伸一著、中公新書ラクレ)
中村先生は、福井県おおい町名田庄地区の診療所の医師。
医学生や研修医がたくさんやってくる診療所でもある。
全国国保地域医療学会でご一緒したことを、昨年の今頃、このプログに書いた。
彼の地域医療に取り組む姿は、NHKの「プロフェッショナル」に取り上げられている。
その彼が書いたこの本は、とてもおもしろい。
7年前に、中村先生は慢性硬膜下血腫になった。
2ヶ月休んだが、たくさんの応援のおかげで、診療所は維持することができた。
復帰してからも、たくさんの地域の人たちが心配してくれた。
それまで、年間の時間外の救急患者数は千を超えていたが、その数が減った。
「救急は診ません」なんてアナウンスしていないのにもかかわらず、地域の人たちが自粛してくれた。
「先生を倒れさせてはいけない」と、どうしても必要なとき以外は、時間外に来なくなった。
中村先生がこの村に長く留まろうとしたきっかけがあった。
ある患者を往診し、くも膜下出血を疑ったが、点滴で楽になったというので帰ってきてしまった。
病院を紹介してCTを撮ることをしなかった。
それから2時間後、おそらく二度目の脳動脈瘤が破裂した。
患者さんの意識がなくなった。
再び、往診に呼ばれ、駆けつけて慌てた。
一緒に救急車に乗って病院へ運んだ。
くも膜下出血だった。
中村先生は、最初の往診で見つけられなかったことを、患者さんの親戚に素直に謝った。
すると、親戚は、
「夜中に何度も呼び出してわるかったよ。真剣にやっていても間違えることはだれにでもある。お互いさまだ」と言った。
「お互いさま」は、中村先生にとって生涯忘れられない言葉になったという。
その後、患者さんは後遺症もなく回復した。
彼はその村の医師として、今も地域医療を続けている。
こういう若い医師がいる地域では、医療に対して安心や信頼がうまれてくる。
大きな病院でも、この安心や信頼がいきわたるといいなと思う。
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