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2010年12月30日 (木)

死者からの言葉

イタコがいなくなりそうだという。
かつて東北に500人以上いたイタコが、10数人になってしまった。
有名な青森県の恐山では、40人いたイタコが4人になった。

ぼくは以前、2人の父に会いに恐山に行ったことがある。
そのことは『それでも やっぱり がんばらない』(集英社)に書いた。
いちばん年寄りのイタコにお願いした。
口寄せが行われ、育ての父、岩次郎さんが降りてきた。

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「待っていたぞ、よく忘れなかったな。でかした、でかした。極楽にいる。幸せだ」
「丁寧に、人の役に立つように生きなさい。そうすれば来年の春3月にはきっといいことがある。また会いたいな、いつか会おう」

これが、イタコの口寄せだった。
ぼくのなかでは、全部辻褄が合っている。
一つもおかしなことはなかった。
抽象的な言葉なので、だれにでも合うといえばそうだが、ぼくは恐山で本当に岩次郎に会ったような気がした。

自殺した人の遺族の心の傷は深い。
イタコに会うことによって、死者と向き合い、癒されることが多いという。

たしかに、死者の言葉がぼくたちに生きる勇気を与えてくれることはある。
恐山で、実の父の存在も大きいことが、イタコの言葉からわかった。
実父には、実父の理由があった。
ぼくを捨てた後も、ぼくのことを心配している、そんなふうに理解することができた。
イタコの言葉によって、ぼく自身、実父に捨てられたという傷を修復できたのだ。

沖縄には、イタコの口寄せに近い文化が、もっと生活に密着する形で残っている。
来年は沖縄に行って、体験してこようと思っている。

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