年をとること
文藝春秋スペシャル季刊夏号「老後の核心」で、「混沌を生きる」というエッセイを書いた。
年をとると、いいこともある。
チェルノブイリの子どもの医療支援、イラクの子どもの医療支援、そして、東日本大震災で南相馬に支援に入ったときのこと。
支援の仕方を考えながら、年をとることもまんざらじゃないということを書いた。
だが、年をとると悲しいこともある。
東京でお世話になった人を連れて行く店がある。
実は、そんな店は一軒しかない。
シェ・ルネという店で、看板も出ていない。気さくな洋食屋という感じだが、とことんおいしい。
1964年にモンパルナスの、正確にはわからないが、いくつもの☆をもらうような店で修行し、38年前に、新橋演舞場のはす前に店を出した。
開高健がこよなく愛した店。
なんでもおいしいが、ムール貝は特別だ。
その店が幕を閉じるという。
年をとるとだんだん怖いものがなくなっていくが、店仕舞いや幕引きに立ち合わなくてはならない。それはさびしいことだ。
いつかぼくも、そんなときが来るのだろう。
幕引きのときが来るまで、精一杯カマタらしく生きるしかないと、今は覚悟を決めている。
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