鎌田實の一日一冊(113)
「福島の原発事故をめぐって」(山本義隆著、みすず書房、1050円)
原発への熱い怒りを抑えて、物理学者が原子力について静かに考察している。
その視点は鋭い。
山本はこう述べる。
「日本人は広島と長崎で被曝しただけではない。今後、日本は福島の事故でもってアメリカとフランスに次いで、太平洋を放射性物質で汚染した三番目の国として世界から語られることになるであろう。
この国はまた大気圏で原爆実験をやったアメリカやかつてのソ連と並んで、大気中に放射性物質を大量に放出した国の仲間入りもしてしまったのである。
こうなった以上は世界中が福島の教訓を共有するべく、事故の経過と責任を包み隠さず明らかにし、そのうえで率先して脱原発社会、脱原爆社会を宣言し、そのモデルを世界に示すべきであろう」
諏訪中央病院前院長の今井澄さんの葬儀のとき、司会のぼくは市民会館のいちばん後ろで、弔辞を読むはずの山本義隆さんの名前を呼んだ。
しばらく反応がなく、来てないのかと思った矢先、山本さんは静かにゆっくりと歩きながら舞台に上がり、しみじみと弔辞を読んだ。
いつも静かでいながら、熱い気持ちをたぎらせている。
そんな山本義隆の原発を考察した一冊。
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