« 新雪を滑る | トップページ | 鎌田實の一日一冊(123) »

2012年1月28日 (土)

鎌田實の一日一冊(122)

「窓際OLトホホな朝ウフフの夜」(斎藤由香、新潮文庫、500円)

著者は、父・北杜夫をしのぐおもしろさがありそうだ。
独身女性の著者が、中年男性の中折れについて述べたり、彼女が売っている精力剤を男性作家がほしいといったという話を載せたり。
はじめのうちはF先生と名前を伏せているのに、だれだかわかるようなヒントを出し、最後には作家の名前をぽろっと出してしまう。
北杜夫のことも、斎藤茂吉のことも、斎藤茂太のことも、あけすけでおもしろいのであるが、いちばん知りたかった北杜夫の影はとても薄い。

Photo_3

北杜夫の躁病はひどかったらしい。
株で破産。
ベートーベンを凄まじい音量で聞きながら、NHKの中国語講座を聞き、短波放送で株価の動きをみる。
なんともけたたましい時期があったようだ。
株をやって破産したら、今度は競馬をやりたいと言い出し、資金がなくなると自分の生原稿まで売ったという。
太宰治、坂口安吾、芥川龍之介のように無頼派や破滅派とは違うと思っていたが、北杜夫もなかなかの破滅傾向があり、なんとなく魅力を感じた。
娘である著者が父の株売買やギャンブルをやめさせたら、「ぼくはもう死ぬから、最後に女にもてたい」といい始め、娘と銀座のバーに行ったりする。
なかなかかわいらしい。

それにしても、娘のつっこみはすごい。
「父はさんざんやって、何の仕事もせず、原稿は一枚も書かずに、結局はうつ病になってしまった」

阿川佐和子が「ご本も出したし、私の父との対談集も出していただきましたし」
ととりなすが、それに対しても手厳しい。
「どれも駄作で、そのうえ二番煎じでひどいです」
そのやりとりを聞いた北杜夫は「さんざん妻に叱られ続けてきましたので、もう慣れとります」
大笑いである。

北杜夫は死んだら、通夜も葬式もしないといった。
しかし、どうしても何かを出したいという人には、「花は食べられないので不可。香典は可。多ければうれしい。ただし香典返しなし。貢物あればなおよし」と娘が言い出して、娘の言うとおりにしたという。

|

« 新雪を滑る | トップページ | 鎌田實の一日一冊(123) »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事