鎌田實の一日一冊(116)
「生きる覚悟」(上田紀行著、角川ssc新書、798円)
同情は圧力に負ける、自分で考え行動すること、なんてことが書かれている。
2年ほど前、ぼくは「空気は読まない」(集英社)という本を出した。
空気を読むことをよしとする風潮のなかで、空気に染まらないことの大事さを、あえて断固とした言い切りのタイトルをつけて、伝えようと思った。
著者も同じようなことを言っている。
おもしろい表現だと思ったのは、「いつの間にか絆が得を目指すものになっていた」というもの。
著者は「徳のある絆をめざすべきだ」と言う。
たしかにそうだと思った。
文化人類学者の著者は、「向こう側からの呼びかけを感じることは人生の自由、人生の開放につながる」と述べている。
江戸時代の人は、お天道様に恥ずかしくない人生を送っているかという、見えない他者のまなざしで自分の生き方を正していた。
「見えない他者」とか「向こう側からの呼びかけ」が大事なのだと言う。
ぼくと同じように彼も、「がんばろう東北」「がんばれ」という言葉があふれている今の日本を心配している。
彼は、「がんばれ東北」と言ったときに、当事者性がないという。
「がんばれ東北」は、言いっぱなしで、言う側の免罪符にすぎない。
言う側が楽になるだけで、言われる側は少しも楽になっていないという。
頭の整理ができるおもしろい本である。
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