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2012年4月24日 (火)

鎌田實の一日一冊(134)

「かすてぃら~僕と親父の一番長い日」(さだまさし著、小学館、1575円)

オヤジさんのことを書いている「初の自伝的実名小説」。

ぼくはさだまさしさんのオヤジさんに、何度も実際にお会いしている。
おもしろい人だなというのはわかっていた。
けれど、これほどおもしろいとは思わなかった。
怪物である。

長崎にいる頃、若いお嬢さんが奥さんのところに遊びにくると必ずこんなことを言う。
「あんたたち暗いところを歩いたらいかんよ。
できるだけ明るいところを歩きなさい。
ちゃんとこういう顔ですと、自分の顔をはっきり見せて帰らないと、間違えて襲われるからね」
なんともひどいことを言うのである。
こんな憎まれ口を利いても、人気があった。

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このオヤジさんが亡くなるとき、柴田先生は懇々と泣き続けた。
ぼくも、宮崎で何度もお会いしたことがあるドクターである。
誠実で、生一本の人。
そして、さだまさしの名曲「風に立つライオン」のモデルである。
本当は、あの曲ほどカッコよくないのであるが、とにかくライオンだからすごい。
ぼくは、まさしさんの友人かと思っていたら、オヤジさん友人だったのだ。

まさしさんがバイオリンを始めたのは、オヤジさんの人生で3年ほど恵まれた時期だった。
材木問屋だったが、失敗。つらい状況が続く。
まさしさんも東京へ出て、お金持ちの息子たちとバイオリンの競争をしなければいけなかったのはつらかったはず。
それでも負けないのは、この怪物のオヤジさんの血を引いているからだろう。
まさしさんはお金がなくても食べさせてくれるところを上手く見つける。
それはぼくも一緒。
親友の保夫君のお父さんが死んだ時、保夫君のお母さんが「めそめそ泣いているんじゃない、笑いなさい、歌いなさい」と言った。
まさしさんの周囲には、こういうタイプが多い。
笑い、歌い、その後に涙があふれてくる。
貧乏のなか、たくさんの人に支えられて、さだまさしが生きてこられたのは、やっぱりこのオヤジさんのせいだと思っていたら、もう一人すごい人がいた。
オヤジさんのお母さん、つまり、まさしさんのおばあさんだ。
シベリアで薬を売っているうちに、砂金を集めて、料亭を経営する。
大変なお金持ちになるが、一銭も持たずに日本に戻ってきた。
それでもまったくめげなかった。
本当の怪物は、このおばあちゃんかもしれない。

このおばあちゃん、作家さだまさしの自伝的実名小説第二弾になりそうな予感。
映画にもなりそうだ。

注意深く読むと、怪物で困ったオヤジさんを、たくましく知的な奥さんがコントロールしているのにも気付く。
めちゃくちゃおもしろい、困難のなかを生き抜いた家族の物語である。

タイトルの「かすてぃら」は、要所要所に出てくる。
さだまさしが苦労した28億円の借金も、オヤジさんが原因だったことがわかった。
なんだ、そうだったのか。
すべて合点した。

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