原発事故415
いろいろなところから、メッセージや緊急提言の呼びかけになってほしいと要請があるが、お断りしてきている。
しかし、「災害医療と原発事故危機管理体制への緊急提言」に関しては、呼びかけ人の一人になった。
厚生労働省の防災業務計画、防災医療に関する検討会の報告書(平成13年2月14日)を見るかぎり、D-mat(災害派遣医療チーム)は、救急医療を専門とする医師や看護師で構成されるだろうと思う。
しかし、今回の震災では、弱者の人たちが搬送時にたくさん亡なられている。
この経験を踏まえるならば、D-matのなかに1~2割は、在宅医療の経験がある医師や看護師、介護の専門家などを加え、救命のためのゴールデンタイムである48時間以降には、寝たきり老人やがん末期の患者、精神障害者らをきちんとサポートする、大きな防災体制を組むべきだと思う。
緊急提言の内容は以下のとおり
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『災害医療と原発事故危機管理体制への緊急提言』
2012年4月11日(水)19時半~20時 衆議院第一議員会館B1F第三会議室
「災害医療と原発事故危機管理体制へ緊急提言する医師の会」呼びかけ
福島原発事故により、日本の災害医療の課題が明らかになった。常時介護を必要とする災害弱者の死亡である。寝たきり、精神病や認知症などの患者たちの避難体制が確立していなかったため適切な搬送ができず、餓死者や凍死といった「防ぎえた死」を多く招いてしまった。
非常時の連絡体制や指揮系統の不備は、事態の混乱に拍車をかけた。災害対応に失敗する原因のなかで最も多いのは情報伝達の不備である。具体的には情報の欠損、情報確認の不履行、協力体制の不在をさす。残念なことにこうした不備が改善された様子が見えない。
もし今、日本のどこかの原発で福島と同じような事故が起こった場合、災害弱者たちは安全に避難できるだろうか?
原発の半径30km以内のどこに何人の自力で動けない寝たきり老人、精神病患者や認知症患者、障害者がいるか、行政は把握しているだろうか?その方々を移送する手段は確保されているだろうか?
例えば寝たきりの田中一郎さんを、近所に住む佐藤二郎さんと鈴木三郎さんが担架で佐藤さんのワゴン車にのせ50km先の○○公民館に連れて行くというような具体的な体制があらかじめ備えられているのだろうか?その指令は誰がどの時点で出すのだろうか?停電で携帯電話もつながらない状態でその情報が確実に伝わる手段は担保されているのだろうか?
道路が寸断されている状況や渋滞対策も考えなければいけない。避難先には食料、水、火力、非常用の電源、毛布、トイレといった生活に必要な資材と十分な医薬品や医療インフラの確保も必要だ。福島原発事故での透析患者の大掛かりな輸送は記憶に新しい。
こうした体制がとられて初めて「防ぎえた死」が回避される。現段階では、原発事故の風向きを考えた様々な想定下のシュミレーションをきちんと行うことが必要だ。福島のように
放射線の強さに関係ない同心円上の避難区域の設定は意味を成さない。災害規模と風向きにより事故対応パターン1、パターン2、パターン3、というように避難パターンを分けておくことも必要である。
そう考えると今のままでは安全対策はまったく不十分である。現時点での原発再稼動は、国民を今以上の危険に晒す。原発再稼動にはストレステスト以上に災害医療の確保が必要である。残念ながら現在、日本の災害医療は大災害には有効に機能できない。災害医療を支える緊急医療すら崩壊が叫ばれて久しいからだ。災害医療の目的は「防ぎえた死の回避」である。現時点で「防ぎえた死を回避すること」ができない以上、原発事故のリスクを高める再稼動をしてはならない。
満岡聰(佐賀 満岡内科消化器科医院) / 鎌田實(長野 諏訪中央病院名誉院長)/色平哲郎(長野 佐久総合病院内科医)/ 阿部知子(元千葉徳洲会病院長・衆議院議員)/古川俊治(医学博士・弁護士・慶応大学教授・参議院議員)/鐘ヶ江寿美子(佐賀 ひらまつレディースクリニック在宅支援診療所)/坂口志朗(東京 柳原リハビリテーション病院/ 長尾和宏(兵庫 長尾クリニック)/ 中野一司(鹿児島 中野在宅医療クリニック院長)/二ノ坂保喜(福岡 にのさかクリニック)/太田俊介(大阪 太田医院)/外山博一(宮崎 外山内科神経内科医院)/矢津剛(福岡 矢津内科消化器科クリニック)/猪口寛(佐賀 いのくち医院)/宮田信之(茨城 宮田医院)/熊川みどり(福岡 福岡大学病院輸血部長)/豊田健二(徳島 豊田内科)/田島和周(熊本 田島医院)/野田芳隆(佐賀 野田内科)/藤戸好典(佐賀 藤戸医院)/山口宏和(佐賀 山口クリニック) /太田紀代子(佐賀 元佐賀中部保健所長)/太田善郎(佐賀 尊厳死協会さが会長)/佐賀宗彦(千葉 生活クラブ風の村 園生診療所長)/平井みどり(神戸大学医学部附属病院教授・薬剤部長)/城谷昌彦(兵庫 城谷医院)/ 大和浩(産業医科大学 産業生態科学研究所教授)/永井康徳(愛媛 医療法人ゆうの森理事長)/今村一郎(佐賀 今村病院理事長)/神津仁(東京 神津内科クリニック院長)以上30名
(2012年4月10日16:00 時点の呼びかけ人、到着順)
【 4項目の緊急提言 : 災害医療と原発事故危機管理体制のために】
避難地域の医療・介護・福祉インフラの中でしか生活できない災害弱者の「防ぎえた死を回避する」ため、地域のネットワーク計画策定の初期段階に、災害医療の専門家、医師が参加することが不可欠であり、具体的には以下の項目を含む。
1 原子力災害に対する地域防災計画において自治体主体の地域医療ネットワークを確立する。
地方公共団体が国の指示を待たずに迅速に住民に対して適切な指示ができるように、医療施設、老健施設、障害者施設、精神病院と地方自治体の首長、消防、警察、自衛隊を横断する確実かつ迅速な情報伝達の仕組みを確保し、地域の医療・介護・福祉のネットワークを確立する。避難命令と避難区域の基準をあらかじめ決めておく。
2 コミュニケーション系統を二重に確保する。
停電や、携帯電話が不通な状況でもトランシーバーなどを使い、住民のすべてに情報伝達できる方法を確保する。また予想していた系統が不全の事態にも対応できるよう二次系統を用意しておく。誰が発信し、誰が受け伝えるかを明記した連絡網も用意しておく。
3 避難の経路と手段を確保する。
自力で動けない寝たきり、障害者、病人、精神障害者の具体的な移動責任者と移動手段を確保しておく。自衛隊と消防と行政、警察の連携計画を立て訓練しておく。避難経路には渋滞対策をする。避難の優先順位をつける。避難には災害弱者と子ども若年女性を優先する。
4 避難先の生活と医療インフラを確保する。
食料、水、火力、毛布、トイレ、医薬品(救急医薬品だけでは足りない)、透析施設の確
保、医師、看護師、介護職を確保する(降圧剤、糖尿病薬、抗凝固薬等切らすと重大な影響がある薬も備蓄する)。
参考例:CSCATTT
災害医療には「体系的な複数傷病者対応:CSCATTT : シーエスシーエーティティティ」と
呼ばれるシステムがある(現在は自ら希望したごく一部の医療関係者や消防関係者しか受講していない)。 このCSCA TTTシステムは、災害医療のガバナンス部分(CSCA)と医療分野(TTT)に分けられる。このシステムが地域で有機的に共有されネットワークとして活用されることで防ぎえた死の回避に有効となる。
C: Command & Control コマンド・アンド・コントロール
S: Safety セイフティ
危険情報の収集と評価
的確な危険(Hazard)の認知・予知
体制の確保:関係機関との連携、
防護のための適切な対策
ゾーニング(区域分け、入り口、出口)
個人防護服
C: Communication コミュニケーション
A: Assessment アセスメント
ここまでが「初動」続く以下は「医療」
T: Triage トリアージ:分類
T: Treatment トリートメント:手当
T: Transport トランスポート:搬送
注)CSCATTTの緊急優先度順は、上から下に向かって下がる。
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