メンタルヘルス研究の後、ラマーラでの夜は、大きな書店の会議室で開かれた「作家を囲む討論会」に出席した。
詩人や作家、ジャーナリスト、大学でメディア論を研究している人などが集まった。
パレスチナを旅行中、情報を聞いてやってきたという韓国の若者もいた。
合計約40人、次々に質問の手が上がり、まるで「白熱教室」と化した。
本屋さんでの討論会。UNRWAエルサレムの総責任者のドクター、ウマイヤさんは人望があつく、この人が声をかけたことで多くの人が集まった
ヒューマニズムの本としてこの絵本は肯定できるが、占領されている事実の書き込みが足りないという意見があった。
「いのちの大切さ」を訴えた絵本であることはわかっているが、イスラエル側に政治的に利用されないようにしたいのだろうなと思える発言も目だった。
この絵本では最後にイスラエルの若者と、殺されたパレスチナ人の少年の父親が同じ船で旅をする。
これに対しても、「パレスチナ人はノーマライゼーション、みんな一緒という考え方に否定的である。まず、イスラエル人が占領をやめて、1948年にパレスチナの70万人の人々の家を奪ったことを自己批判しないといけない」というのである。
次第に政治集会みたいな趣きになっていく。
ぼくは、こう述べた。
「この本は平和をつくりだすための本なので、ぼくはパレスチナの人たちの大変さにシンパサイズしながら、イスラエルの人たちにも拒絶反応がおきないように、ニュートラルな立場で書いた」
討論会に集まった方々
しかし--。
絵本には、「人間の心のなかには獣がいる」という文章が出てくるが、このセンテンスのところの絵が、まるで「イスラエル兵のなかに獣がいる」というようにかかれている。
もちろん、日本語のほうには「イスラエル兵」などという言葉は一回も書いていないのであるが、イスラエル側からかなり強い批判が出るのではないかという人も出てきた。
「戦いが続く地で本を出すのはむずかしいですね」
思わず、ぼくが後ろ向きな発言をすると、今度は会場から「ネバー・ギブ・アップ」「絵本を出してほしい」と声をかけられた。
ジャーナリストから取材を受ける。なぜパレスチナことを知ったのか、パレスチナことは日本できちんと報道されているか、質問された
学校の先生をしている人はこんな意見をいってくれた。
「あまり書き換えたりする必要はない。この本は十分に貴重な存在である。このまま本を出すべきである」
そして、「私は子どもたちにこの本を授業のなかで読ませてみたいと思う。命がどんなに大切か、平和に向かうためにどうしたらいいのか、日本人の一作家の考え方をパレスチナの子どもたちに学ばせてみたい」と話した。
みんな平和に向けて手詰まりなのである。
白熱したディスカッションが終わると、何人もの人がサインをしてほしいと行列をつくった。
こんなに真剣に、本を隅々まで読み、いろいろな意見を言ってくれる読者がいるというのは、実にうれしいことである。
詩人という女性に、サインをしているカマタ
ラマーラでの討論会は夜遅くまで行われ、エルサレムのホテルに戻ったときには足はパンパンに腫れていた。
ちょっと時間があると、あちこち動き回るぼくだが、今回は世界遺産も見物していない。
明日は、ジェリコの保健所を再訪。
医療関係者が、絵本の感想を話してくれるという。
その後、ベツレヘムで一般の市民が40人以上集まってくれるというので、絵本について語り合ってこようと思う。