鎌田實の一日一冊(158)
「福島核災棄民-町がメルトダウンしてしまった」(若松丈太郎著、コールサック社、1890円)
著者は、ぼくがプロデュースした「ふくしま・うた語り」のなかに収録させていただいた「神隠しされた町」を書いた詩人である。
今、南相馬市に住んでおり、お宅を訪ねて、お話を聞いたことがある。
「はじまり? 終わり?」というエッセイのなかに、三谷晃一という詩人の言葉が書かれている。
「何かがはじまってから五千年は経つ。
終わってもいいものは終わるころだ」
若松は、「私の前にあるのは何かのはじまりなのだろうか、あるいは何かの終わりなのだろうか。
そのことを見届けることも文学が存在する意味の一つであろう」と書いている。
この言葉には、触発されるものが多い。
命がはじまって38億年は経つ。
「終わっていいものは終わるころだ」というが、終わっては困る。
つないできた命は終わらせてはいけない。
ぼくがアフリカを訪ねるのも、そんな思いがあるからだ。
20万年前、ホモ・サピエンスが生まれたアフリカのサバンナに立ち、奇跡的につないできた命を終わらせないために、我々はどこへいったらいいのか、考えてみようとも思っている。
この本では、多くの想像力が喚起される。
原発があった双葉町のアーチには、「原子力正しい理解で豊かな暮らし」「原子力郷土の発展ゆたかな未来」と記されている。
ついつい想像してしまうのは、ポーランドのアウシュビッツ収容所の入り口にある文字である。
「労働は自由をもたらす」
スローガンのうそを見抜く力を、ぼくたちは身につけなければいけない。
これからも、薄っぺらなスローガンにだまされることなく、我々が来た道をきちんと振り返りながら、我々はどこへ行くのか考えていく必要があるように思った。
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