鎌田實の一日一冊(192)
「アーレント=ハイデガー往復書簡」(大島かおり・木田元翻訳、みすず書房、6090円)
哲学者アーレントの話がこの秋、「ハンナ・アーレント」という映画になる。
それを機に、この本をむさぼり読んでいる。
アーレントが女学生だったとき、新進気鋭の教授ハイデガーと情熱的な恋に落ちる。
着いたり離れたりしながら、50年間の関係。
それぞれ家族をもっているが、ハイデガーはアーレントに心を奪われているようだ。
なんともおもしろい。
ハイデガーはナチスに入党したり、とんでもない哲学者であるが、彼の「存在と時間」はおもしろい。
心があるということはどういうことかを分析。
経験や知性、思考のなかで、人間は「世界内存在」として生存すると説明している。
人間は時間の流れのなかにあって、過去、現在、未来という時間を抱え込んで存在している。
未来の可能性を見出そうとして、前向きに現在を生きる、それが実存的生き方。
未来を見据えたとき、確実なものは死。
しかし、ハイデガーは、確実にやってくる死に向かって自由であることのみが、現存在に端的な目標を与える、
非存在となる死があるからこそ、未来に向かって生き生きと生きるという実存的生き方を示した。
不安や恐怖をもたらすものと考えられている「死」をひきうけることによって、人間の本来的な存在の意味がはっきりしてくる。
ならば、死を怖がらないことだ。
このハイデガーの哲学が生まれるときに、アーレントという女性がいた。
これだから人間はおもしろい。
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