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2013年11月26日 (火)

鎌田實の一日一冊(193)

「病の皇帝「がん」に挑む-人類4000年の苦闘」(シッダールタ・ムカジー著、田中文翻訳、早川書房、上下巻各2205円)

ピュリッツアー賞受賞作。

著者は腫瘍内科医。
「がん」と思われる最も古い痕跡は、200万年前の人類の祖先の骨から見つかっている。
人類学者ルイス・ピーキーが発見した人類の祖先の骨のなかに、東南アフリカ地域の固有の特殊なリンパ腫の骨転移を思わせる骨が見つかったのだ。
人類の歴史のはじめのころから、すでにがんはあったということだ。

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記録上で最も古いものは紀元前2625年、エジプト人医師イムホテプが書いたパピルス。
イムホテプは、ジェセル王の宰相にして、医師で、建築家。天文学にも造詣が深かった。
今年、アフリカを旅したとき、イムホテプが作った不思議な石の建造物を見た。
その石の建造物の中の小さな穴からは、北斗七星を望むことができる。

イムホテプは、48の病気について記述しており、そのなかには乳がんと思われるものがある。
彼は「乳房の隆起するしこり」について、「冷たく、かたく、血液でできた果実のように実がつまっており、皮膚の下をひそかに広がっていく」と表現している。
がんの表現としては見事な表現だ。
4600年前の話である。
「治療法はない」と書いている。

今、世界中で年間700万人ががんで死んでいくとムカジー。
病の皇帝がんに挑む人間たちの戦いを、エキサイティングに語っている。
まるで小説のような文体で、がんを描いている。

上下二巻合わせて800ページ。
読みごたえのある本である。

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