新春の緩和ケア病棟
諏訪中央病院の緩和ケア病棟の患者さんは、明るい人が多い。
よく笑う。よく食べる。がんの末期とは思えない。
東京から来ている女性は、「最後は諏訪中央病院にやってきて大正解、迷いはなかった」という。
毎日が「うれしくて」と、まるでがんなんて感じさせない。
「悪いことを考えてもどうすることもできない」と、ものすごく楽天的だ。
76歳の新聞屋さんのおじいちゃんもこう言う。
「くよくよ考えたってしょうがない、なるようにしかなんねえんだ」
みんな自分のことをよく知っているが、くよくよしないのだ。
信州の雪、あったかい
宮大工のおじさんも「病院で、こんなにいろんな種類のお餅が食べられるとは思わなかった」と大喜び。
あんこや黄粉、えだまめ、ゴマのお餅に目を見張った。
その話を受けて、ぼくは冗談を言う。
「ほかの病院では、のどに詰ませれて大変なことがあると困るので、お餅は出さないんです。
でも、この緩和ケア病棟は気にしません。
自分で食べたいと思った人は食べればいいんです」
そう言ったら、みんな大笑い。
餅を詰まらすなんて、自分たちはちっとも怖くない、という。
病室から出てこれず、意識がうろうろしているおばあちゃんがいた。
でも、親戚と家族が15人くらい部屋に集まって、にこにこしながら、あたたかく見守っている。
不思議な病棟だ。
しかめっ面をしている人がいない。
新しく横浜から女性の患者さんがやってきた。
この人は子どものころ諏訪にいたという。
「がんになったら、ふるさとの諏訪中央病院」と決めていたという。
実際に、戻ってくることができ、ほっとしたという。
ぼくが回診にいくと、「握手してください」と手を差し出した。
先生のテレビを見てましたとか、本を読んでますとかの話はでても、自分の病気の質問はまったくない。
「子ども時代を過ごしたふるさとに帰ってきただけでうれしい。
八ヶ岳が見えるだけでうれしい」と笑顔を浮かべる。
ぼくが「にこにこしている人には奇跡がよく起こります。
ほかの病院で、もうだめと言われた人でも、そこからよくなることがよくあります」というと、
「先生、よくなっても、よくならなくてもどっちでもいい、帰ってきただけでうれしいんだから」
軸足がしっかりしている。
何種類もの野沢菜漬けが出てきた。
みんなが自分の家の自慢の野沢菜漬けをもってくる。
これがいい、いや、こっちのもいい味だ、と勝手に批評しながらいただく。
塩分がどうとか、もう関係ない。
こわいものはない。
食べたいものを食べるだけである。
看護師も手があくと、一分間くらい座ってお茶を飲んでいく。
なかなか座ろうとしない看護師がいると、「たまには座っていかないとだめ、心に余裕がないと、いい仕事ができないよ」と人生の先輩から声をかけられる。
患者さんたちが、看護師のことを心配してくれているのだ。
ぼくの回診中、笑わない人は9人中1人もいなかった。
笑い声があふれている緩和ケア病棟。
いつでも、笑いがあふれている。
不思議な病棟だ。
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