鎌田實の一日一冊(217)
「変身」(フランツ・カフカ著、新潮文庫)
「ある朝、グレゴール・ザムザが何か気がかりな夢から目を覚ますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているりを発見した」
こんな言葉で始まる有名な小説。
彼の小説は、発表時、まったくうけなかった。
時代を超えるような作品は、すぐにはその価値がわからない。
「絶望名人」のカフカ自身さえ、自分の作品の価値をわからなかった。
40歳で結核で亡くなる彼は、その前に、自分の作品は失敗作と思い、全部燃やしてしまおうと数少ない親友に伝えた。
しかし、作品を預かった親友は、彼の作品の独創性を理解しており、後世に伝えたのである。
突然の異変に家族は困惑するが、結局、何も変わらず、奇妙な日常がひたすら続いていく。
変身していく自らの姿を通しながら、不条理の人間の生活やわかりにく現代の不安を見事に表現している。
プラハを訪ねたとき、カフカが小説を書いていたという家を見た。
そこはかつてプラハ城の端にある錬金術師の長屋だった。
金を作り出そうとした夢の跡で、彼は書いていたのだ。
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