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2014年10月13日 (月)

鎌田實の一日一冊(218)

「痴人の愛」(谷崎潤一郎著、新潮文庫)

主人公のナオミが、有島武郎の「カインの末裔」を読んでいる場面が出てくる。
この本が書かれた大正14年、島崎藤村や志賀直哉などの作家が活躍している頃、
谷崎純一郎は耽美的な作品を発表している。
性や美を通して、人間の邪悪な心、とんでもない心を表現し、優等生たちの自然主義と一人で闘っているようで面白い。
ナオミは15歳。
この小説で一人語りをする主人公は28歳。
この二人が愛に狂う。
自由で奔放なナオミに比べて、「君子」とあだ名されいる主人公は愚鈍で、誠実を絵に描いたような男。
その男が狂っていく。

Photo

谷崎は大正9年、妻の千代の妹せい子に惚れて、同棲を始めた。
そのせい子がナオミのモデルと言われている。
せい子に惚れた谷崎は、妻の千代を、知人の佐藤春夫に“譲渡”する。
その後、佐藤は谷崎と千代の間の子どもの含めて、千代を受け入れるが、
せい子に肘鉄を食らった谷崎は、前言をひるがえして、千代を譲らないといい出す始末。
2人は絶交を宣言する。
谷崎も、せい子も、佐藤も狂っている。
この狂い方が、この作品の元となった。
小説としては傑作とは思えない。
好きにもなれない。
ただ、小説家が傷つきながら、しかも狂いながら書いているという意味で、おもしろい。

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