鎌田實の一日一冊(220)
「情事の終り」(グレアム・グリーン著、新潮文庫)
グレアム・グリーン自身の奔放な経験が、この名作を生み出したと言われている。
イギリス人の大富豪を夫にもつ、アメリカ生まれの女性と10数年間に及び、激しい恋をした。
しかし、突然、サラは去っていく。
作家と、サラの夫は、第三、第四の男がいるのではないかと疑う。
不倫の恋は終わっていたが、作家は探偵を雇う。
それにより、情事の後の想定外のてんまつが見えてくる。
探偵の調査で、彼女にはたくさんの男たちがいることがわかってくるが、
「第三の男」は、男ではなかった。
カトリック教徒ではなく、神を否定して自由奔放に生きたサラが、最後に神にすがる。
グリーン自身を投影した作家は、神に盾を突く。
憎悪や嫉妬、罪の意識、性的欲求、宗教などをもりこみながら、人間の業に迫る優れた小説だ。
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