最後の夢
34年前の新宿西口バス放火事件。
6人の人が亡くなる無差別犯罪である。
何の関係もない人が巻き込まれた。
杉原さんは一命を取り留めたが、80%の熱傷を負った。
そのとき使った血液製剤でC型肝炎になり、最後は肝臓がんになってしまった。
「それでも私は火を放った若者を憎んでいない」
という言葉を、彼女の口から聞いた。
無理して言っているのではなかった。
彼女は本当にそう思っているのである。
こんな人間がいるんだろうかと考えた。
彼女の夢は、豪華な夜行列車で北海道に行くこと。
最後の夢はかなわなかった。
◇
鬼検事から闇の世界の弁護士に転身した田中森一さん。
刑務所で胃がんが見つかった。
ぼくの本を差し入れてもらい、全部読んだという。
出所後は元気で過ごしていたが、胃がんの再発で亡くなった。
田中森一さんの夢は、恵まれない貧しい子どもたちに勉強するチャンスを与えること。
この夢はどこまでいったんだろう。
あたたかな心をもった人たちが、この世を去っていく。
人生は悲しいものである。
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