鎌田實の一日一冊(225)
「認知症になった私が伝えたいこと」(佐藤雅彦著、大月書店、1728円)
著者の佐藤雅彦さんとは、何度もお会いしてきた。
51歳のとき、若年性のアルツハイマー病と診断された。
症状が現れはじめたのは、46歳ごろから。
ご飯を食べたことが1時間後にはわからない。
糖尿病の薬を注射したかどうかも、わからなくなることもある。
60歳になった今も、工夫しながら一人暮らしをしている。
「最後まで自分らしく自由でいたい」という強い意思がある。
アルツハイマー病になっても、人間がすべて壊れるわけではない。
記銘力障害などは低下するが、感情の営みやそうありたいというその人らしい望みは残されることが多い。
認知症の症状がまだら状に起きてくるなかで、佐藤さんはこう言う。
「認知症になって生活は不便になったけれど、ぼくは不幸せではありません」
名言だ。
認知症になったらもう終わりと、ぼくたちは勝手に思い込みがちだが、
彼はすでに14年間、認知症とともに生きている。
日常生活に支障をきたし、「できない」「できない」と日記に書いていたときにはつらかったが、
「今日はこれができた」「こんな美しいものを見た」「こんなおいしいものを食べた」と日記をつけるようになってからは、
気持ちが明るくなったという。
この本は、認知症の当事者自身が、認知症とどう付き合えばいいのか教えてくれる貴重な本だが、
ひろく生き方のヒントまで教えてくれているようだ。
いい本だ。
道を開く勇気をもっている佐藤さんのことが、大好きです。
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